国家的棄民を繰り返すのか
-コロナ「自宅療養」に思う-
東京五輪は、きのう閉幕。きょうは8月9日。その8月を詠んだ句がある。
八月や六日九日十五日
6日は広島、きょう9日は長崎の原爆の日。そして15日は、76回目の終戦の日である。だが長年、中国残留邦人の取材を続けてきた私はその9日に、ぜひソ連軍の旧満州侵攻を加えてほしいと思っている。
敗戦6日前の1945年8月9日、ソ連軍は突如、ソ満国境を越えて満蒙開拓団の村々に襲いかかった。男手は国境警備に取られ、残ったのはお年寄りと女性と子ども。守ってくれるはずの関東軍はとっくに逃げ出し、老人と女性は惨殺されるか、辱めを受け、多くの幼子が中国残留孤児となった。国が名もなき市民を見捨てた国家的棄民だった。
なぜ今夏、ことさら、そのことが私の胸をよぎるのか。コロナ対策をめぐって菅政権は、重症者と重症リスクの高い人、及び、中等症と診断されなかった軽症の患者は原則、入院させず、自宅で療養させる方針を固めた。
昨年、国内で感染が確認され、「入院を拒否する者には罰則も」とした時とは正反対の対応。しかもウイルスの変異で感染力が1・5倍にもなっている時に、だ。
政府は保健所が自宅療養者をケアするとしているが、3波4波の際、300回も保健所に電話してもつながらなかった。やむなく呼んだ救急車の中で息を引き取った。そんな例が相次いだことを忘れたわけではあるまい。
はっきり言おう。助ける命、見捨てる命。またまた国家的棄民が始まったのだ。
それが戦後76年の夏。五輪後のこの国の政府が私たちに見せてくれる、おもてなしの姿なのだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月9日掲載)
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