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2021年8月

2021年8月25日 (水)

「見せる警備」で抑止するしかないのでは

-小田急線 無差別刺傷事件-

 通信社から「どうしたら、このような事件は防げるのでしょうか」とコメントを求められて、考え込んでしまった。今月初め、夜の小田急線で刃物を持った男が次々乗客を襲い、女子大生ら10人が重軽傷を負った。車内に油をまいて放火も図った36歳の派遣社員の男は「勝ち組っぽい女性に腹が立った」と供述している。

 大学中退後、定職もなく、生活保護を受けていたという犯人の男。格差社会を是正すべきといっても、すぐにできることではない。

 ではラッシュ時、身動きもとれなくなる通勤通学電車の安全はどうしたらいいのか。

 私は「JR東海などの新幹線を参考にしたら」と、提言させてもらった。

 2015年、小田原付近を走行中の東海道新幹線車内で71歳の男がガソリンをかぶって自殺。巻き添えで女性1人が死亡した。また2018年には、新幹線車内で22歳の男が女性2人を刃物で襲い、止めに入った38歳の会社員が殺害された。

 こうした事件で私は当時、「防犯カメラなどの機械警備では犯行そのものは止められない。全部の列車にガードマンを乗車させるべき」と、このフラッシュアップなどで提言させてもらった。

 そのせいでもないだろうが、数年前から東海道新幹線では全列車に制服姿で特殊警棒、無線機を持ったガードマンが乗車。最近は発着時、乗降口で手荷物にも目を光らせ、幸いにしてその後、凶悪事件は起きていない。

 もちろん通勤通学電車では簡単なことではないだろうが、せめて一部の電車やホームにガードマンを配置させることはできないか。
 身勝手な理屈の無差別犯行は「見せる警備」で抑え込むしかないと思うのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月23日掲載)  

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2021年8月18日 (水)

若者に信頼できる情報を

-ワクチン接種への躊躇-

 新型コロナ感染は先週、専門家が「災害時並み」と警告する事態となった。そんな時、ここ1年、折に触れて情報をくださる地元のS医師からメールが届いた。

 一時、供給が危ぶまれたワクチンは必要量が届くようになったと記されたあと、やはりこんな心配が。

 〈そのような状況になりながら、(若者が対象の)大学キャンパスでの接種はワクチンが余ってしまって、近隣の会社の方や家族にも接種できたと聞きました〉

 大学ばかりではない。若い働き手の多い職種の接種に出向いた医師も「暇だった」と嘆いていたという。

 S医師も指摘する若者のワクチン躊躇。ただ、これには私たちメディアにも責任があると思えてならない。SNS上に飛び交う情報。「金属片を埋め込まれて行動が監視される」「遺伝子が書き換えられる」。 

 ちょっと考えればデマとわかるはず、と切って捨てるのは簡単だ。だが、「不妊や流産の話はやはり心配」という女性の声は根強い。ワクチン接種が日本で始まって半年。そんなデータがそろうはずがないと強調してみせたところで、悲しいかな、メディアよりSNSが信じられてしまっている。

 ただ、これはメディアだけのことではない。小出しの対策しかないこの国の政府。医師と学者で不協和音も聞こえてくる医学界。いずれにも若者の目や耳は向いていないのだ。

 ここはどうだろう。メディア、政治、医学界が手を携えた発信基地は作れないものか。若者がいま求めているのは、何にも増して信頼できる確かな情報のはずだ。

 若者は、ぜひワクチンを―。S医師のメールは静かな呼びかけで結ばれていた。



(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月16日掲載)

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2021年8月11日 (水)

国家的棄民を繰り返すのか

-コロナ「自宅療養」に思う-

 東京五輪は、きのう閉幕。きょうは8月9日。その8月を詠んだ句がある。

 八月や六日九日十五日

 6日は広島、きょう9日は長崎の原爆の日。そして15日は、76回目の終戦の日である。だが長年、中国残留邦人の取材を続けてきた私はその9日に、ぜひソ連軍の旧満州侵攻を加えてほしいと思っている。

 敗戦6日前の1945年8月9日、ソ連軍は突如、ソ満国境を越えて満蒙開拓団の村々に襲いかかった。男手は国境警備に取られ、残ったのはお年寄りと女性と子ども。守ってくれるはずの関東軍はとっくに逃げ出し、老人と女性は惨殺されるか、辱めを受け、多くの幼子が中国残留孤児となった。国が名もなき市民を見捨てた国家的棄民だった。

 なぜ今夏、ことさら、そのことが私の胸をよぎるのか。コロナ対策をめぐって菅政権は、重症者と重症リスクの高い人、及び、中等症と診断されなかった軽症の患者は原則、入院させず、自宅で療養させる方針を固めた。

 昨年、国内で感染が確認され、「入院を拒否する者には罰則も」とした時とは正反対の対応。しかもウイルスの変異で感染力が1・5倍にもなっている時に、だ。

 政府は保健所が自宅療養者をケアするとしているが、3波4波の際、300回も保健所に電話してもつながらなかった。やむなく呼んだ救急車の中で息を引き取った。そんな例が相次いだことを忘れたわけではあるまい。

 はっきり言おう。助ける命、見捨てる命。またまた国家的棄民が始まったのだ。

 それが戦後76年の夏。五輪後のこの国の政府が私たちに見せてくれる、おもてなしの姿なのだ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月9日掲載)       

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2021年8月 4日 (水)

近未来の観戦? 無観客もいいもんじゃないですか

-東京五輪あと1週間- 

 昨秋、「オランダより友来る」と書いた今野充昭さんから東京五輪に合わせて帰国したとメールが届いた。

 空手普及のためオランダに渡って約半世紀。ここ4年間は過去3回女子オランダチャンピオンになったシスカ選手(37)のコーチをつとめていたが、残念ながらシスカ選手は五輪代表切符を逃し、今野さんは選手帯同とはならなかった。

 メールには前回東京五輪で外国人初の柔道金メダリストとなったオランダ人、「あのヘーシンクさんの偉大さにあらためて頭が下がります」と書かれていた。

 コーチとしての空手参加はかなわなかったが、オランダ人のご夫人の「行かなかったら、一生後悔するんじゃなぁ~い?」の声に感謝しての帰国。14日間のコロナ隔離もすんで、いまは旧知の方の都内のお屋敷に滞在。「いやぁ、無観客もいいもんじゃないですか」と電話の声がはずんでいる。

 酷暑のなか、チケット片手に走りまわることもなく、柔道、水泳、卓球…。テレビをザッピングする優雅な日々。「これが近未来の五輪観戦では」という。

 たとえば今回の開会式は、世界で10億人がテレビで見たといわれている。有観客で5万人がスタジアムに入ったとして、わずか2万分の1。これからは開催地はアテネに定着させるとか、あるいはアフリカ諸国に競技場やプールを次々に建設、試合は全世界にテレビで配信する。今野さんは、東京大会をきっかけにそんな提案をしてみたら、という。

 その今野さんが楽しみにしている空手の試合は5日から。いろいろあった、いや、いろいろありすぎた2020東京五輪も閉会式まで残すところ、あと7日だ。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年8月2日掲載)

 

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