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2021年7月

2021年7月28日 (水)

もう1度ソフトで厳しい言葉を聞いてみたかった

-酒井政利さん死去-

 オリンピックとコロナ禍の記事があふれる紙面で、それはひっそりと報じられた気がする。酒井政利さんが亡くなった。85歳だった。

 南沙織さん、山口百恵さん、キャンディーズ、矢沢永吉さんら多くの歌手の楽曲を世に出された「伝説のプロデューサー」。

 20年も前の2000年初め、テレビ朝日の早朝番組、「やじうまワイド」で、酒井さん、漫画家のやくみつるさん、そして私の3人でコメンテーターをさせていただいた。少し長いCMに入ると、喫煙コーナーに駆け込む自称不良中年。酒井さんは「伝説」とはほど遠い気さくな方だった。

 「才能を持つ原石を見つけてくるのがぼくたちの仕事。だけど、それを磨くのはその歌手の感性と努力。そのうえで、何を発信するかです」。だからそれを大事にしない人には手厳しかった。それはアーティストにとどまらない。

 女性の五輪メダリストがタレントもどきの外国人と結婚すると聞くと、「やめなさい。あなたの才能も努力もつぶされる」と頑固一徹パパのように怒っていた。

 後年、大事にしているアーティストの私生活や芸能界のゴシップに、あることないことコメントしてはご意見番を気取る女性に、とうとう我慢ならなくなった。裁判も辞さない覚悟で「寄生虫」と切って捨てた。しなやかな人柄の中に、すっくと伸びた青竹のような芯を持っておられる方だった。

 華やかに終わったとはいえ、開会式の楽曲や演出にもクレームがついてしまった東京五輪。音楽とは何か。プロデュースとは、アーティストとは。

もう1度、酒井さんのソフトな口調に包まれた、厳しい言葉を聞いてみたかった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年7月26日掲載)

 

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2021年7月21日 (水)

毅然とした姿勢 感じた静岡方式

-熱海 土石流災害-

 死者18人、行方不明12人の大惨事となった熱海市伊豆山地区の土石流災害。発生から11日たっていたが、静岡朝日テレビの「とびっきり!しずおか」に出演、報道記者から家屋が猛烈な勢いで流されていく生々しい映像を入手したときの驚きや、その後の取材の苦闘ぶりを聞かせてもらった。

 そんな中、経験したことのない大災害を前に、静岡県、熱海市、行政の毅然とした姿勢が心に残った。

 発生から2日たった5日夜。行方不明者の公表をためらう県の担当者に、難波喬司副知事が必ず今日中に記者会見を開けと命じ、64人の不明者全員の氏名を新聞、テレビに発表。その結果、わずか1日で44人の無事が確認された。泥水に腰までつかって捜索する警察、自衛隊、消防が、それによってどれほど効率的に動けたか。静岡方式は今後、全国の自治体が参考にしてほしい。

 その難波副知事は土石流となった盛り土について、業者が規定の15㍍の3倍も土を盛り、その土には冷蔵庫など産業廃棄物も含まれていたとして「明らかに不適切かつ違法」と断言した。

 こうした業者への指導は県や市の業務。場合によっては官の責任も問われかねない。だが副知事は「失われた人命に対して、県は説明責任がある」として、私が出演した当日は、前日に記者から出されていた60の質問に答えて、記者会見は2時間半にも及んでいた。

 コロナ禍の中で起きた土石流災害。いずれもあってはならないことだが、官の責任も官が厳しく追及していく。一方で官がなすべきことまで民に押しつけて、いらぬ軋轢を生む官のありようも問いかけた、今回の大惨事だった気がする。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年7月19日掲載)

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2021年7月14日 (水)

全員不起訴「検事の本懐」は どこに

-河井元法相 買収事件- 

〈受領100人不起訴-「もらっておけばよかった」-正直者〉。これは公選法違反で3年の実刑判決を受けた河井克行元法相から買収資金を受け取った広島の県議や市議ら100人が全員不起訴となった先週、読売新聞の「USO放送」に載った読者からの投稿だ。

 2019年参院選候補の妻・案里元被告への投票取りまとめのため、県議や市議、町議にバラまかれた金は2900万円。国会議員秘書の300万円を筆頭に県議200万円、市長100万円など計100人。50万円受け取った地方議員も16人にのぼったが、東京地検は全員を不起訴とした。

 新聞記者時代から多くの公選法違反事件を取材してきた。その中で名もない市民が現金を受け取ったとする買収事件は冤罪の温床といわれている。取り調べた男性に孫の名前を書いた紙を踏ませて自供を迫った2003年鹿児島・志布志選挙違反事件は起訴された13人が、また警察が現金受け渡しの会場まででっち上げた1986年大阪・高槻買収事件では史上最多147人全員が無罪となっている。

 すぐに思い出すだけでも過去、これだけ罪のない人を泣かせながら、このたびは罪を認めて丸刈りになった市長までいたのに、全員不起訴とはどういうことだ。

 検察は元法相という大物を追い込むには金を受け取った側の〝協力〟が不可欠だったとする。だが今回、多額の現金を受け取ったのは名もない市民ではない。選挙違反が民主主義を根底から破壊することを熟知している議員ではないか。 

 諄々と諭し、心静かに法の裁きを受けさせる。それこそが「検事の本懐」ではないのだろうか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年7月12日掲載) 
   

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2021年7月 7日 (水)

これが「ふれあい」求める祭典の姿か

-五輪とホストタウン-

 大阪の北部と南部、わが家とは随分離れているが、泉佐野市がホストタウンとしてウガンダの五輪ボクシング選手らを招いていると聞いてちょっと心が躍った。

 ところが先月19日、成田に到着するなり、コーチのコロナ感染が判明。それなのに残る8人と出迎えの市職員4人は濃厚接触者と認定されないままバスで泉佐野市に直行。到着後、新たに1人の感染も明らかになって隔離状態が続いている。

 政府の方針では空港での検疫は国が行うが、濃厚接触者の判別は受け入れ自治体の責任としている。一体、出迎えの市町村の職員にどうやって濃厚接触者を見分けろというのか。

 政府は6月末、あわててマニュアルを作成。空港検疫で濃厚接触者を判別。そこから5時間以上かかる遠い自治体のためには隔離ホテルを用意。それ以外は防護服を着た運転手や職員とともに感染者をバスで市町村に直行させるとしている。果たして小さな町や村が、すぐに防護服着用の運転手やバスを手配できるのか。

 ウガンダのボクシング選手は体重管理に気を使いながら、おいしい食事に大喜び。一方で「泉佐野をはじめ、大阪の人々に迷惑をかけた」と度々、おわびの言葉を口にしているという。

 だが、こうした国のコロナ対策の遅れに、これまで受け入れを決めていた582のホストタウンのうち、102の自治体が中止を決定。受け入れる市町村の多くも、選手と市民は完全に引き離すとしている。これが競技の記録とともに、選手と開催国の国民とのふれあいを求めた平和の祭典のあるべき姿なのだろうか。

 いまからでも遅くはない。立ち止まって、いま1度、考え直してみたい。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年7月5日掲載)

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