もう1度ソフトで厳しい言葉を聞いてみたかった
-酒井政利さん死去-
オリンピックとコロナ禍の記事があふれる紙面で、それはひっそりと報じられた気がする。酒井政利さんが亡くなった。85歳だった。
南沙織さん、山口百恵さん、キャンディーズ、矢沢永吉さんら多くの歌手の楽曲を世に出された「伝説のプロデューサー」。
20年も前の2000年初め、テレビ朝日の早朝番組、「やじうまワイド」で、酒井さん、漫画家のやくみつるさん、そして私の3人でコメンテーターをさせていただいた。少し長いCMに入ると、喫煙コーナーに駆け込む自称不良中年。酒井さんは「伝説」とはほど遠い気さくな方だった。
「才能を持つ原石を見つけてくるのがぼくたちの仕事。だけど、それを磨くのはその歌手の感性と努力。そのうえで、何を発信するかです」。だからそれを大事にしない人には手厳しかった。それはアーティストにとどまらない。
女性の五輪メダリストがタレントもどきの外国人と結婚すると聞くと、「やめなさい。あなたの才能も努力もつぶされる」と頑固一徹パパのように怒っていた。
後年、大事にしているアーティストの私生活や芸能界のゴシップに、あることないことコメントしてはご意見番を気取る女性に、とうとう我慢ならなくなった。裁判も辞さない覚悟で「寄生虫」と切って捨てた。しなやかな人柄の中に、すっくと伸びた青竹のような芯を持っておられる方だった。
華やかに終わったとはいえ、開会式の楽曲や演出にもクレームがついてしまった東京五輪。音楽とは何か。プロデュースとは、アーティストとは。
もう1度、酒井さんのソフトな口調に包まれた、厳しい言葉を聞いてみたかった。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年7月26日掲載)
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