五輪って「楽しくて最高の場所」なのに
-上村愛子選手を思い出した-
何がなんでも開催をゴリ押ししようとする東京オリンピック。一方で、記者会見を拒否して女子テニス全仏オープンを棄権した大坂なおみ選手。複雑な思いが交錯する中、ふと2014年、ソチ冬季五輪のとき、このコラムに書いた女子スキーモーグルの上村愛子選手のことを思い出した。
このソチの1つ前、2010年バンクーバーに至るまでの上村選手の成績は、7位、6位、5位。「今度こそメダルを」と、満を持して臨んだこの大会。だが、午後7時半のスタート時点でバンクーバーは氷雨に霧に風。上村選手の黒いヘルメットは水滴で光っていた。
そして結果は-4位。「なんで私、1段1段なんだろう」。だが、上村選手は、その言葉のあとにぬれねずみの姿でコメントを求めて長時間待っていた記者に目を向けると、「私がメダルを取っていたら、みなさんのご苦労も少しは報われたのに、本当にごめんなさい」。そう言って静かに会場をあとにした。
さらに引退の思いをふっきって、5大会連続出場となった2014年ソチ。結果は、またしても4位だった。だが、少し時間をおいてゴーグルを外し、泣きまねをしてみせた、その目に涙はなかった。
「そっか、私、また4位だったんだな」と言ったあと、取り囲む記者に「どんなきついことでも、どんどん聞いてください」。
1998年、上村選手18歳。その長野からソチまで5大会連続のオリンピックへの思いを問われると、「楽しくて、最高の場所!」
オリンピックに、そしてアスリートとメディアに、私たちが思い描く姿がここにあるように思うのだが。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年6月14日掲載)
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