失態隠そうとか 政治生命延ばそうとか…小ざかしさはない
-64年読売新聞1面から-
抜粋になることをお許し願って一文を紹介したい。
〈白い顔も、黒い顔も、黄色い顔も…若ものたちはしっかりスクラムを組んで一つになり、喜びのエールを観客とかわしながら〝エイ、エイ〟とばかり押し通った。いろとりどりの服装が照明の中でないまぜになって、東も西も、南も北も、ここにはない。
平和ということばがあった。友情ということばがあった。でも、わたしたちは、それらをことばのうえでしか知らなかった。しかし、いま、目の前に、平和が、友情が、ことばとしてではなく、現実の姿としてある。
「世界は一つ」と聞かされてきたわたしたち。そのことばはあまりにも美しい響きのゆえに、かえってそのウラに大きな虚偽を隠しているのではないか―としか受けとれなかった。しかし、いまわたしたちの前に、すばらしい光景が展開されている。肌で分ける壁もない。主義、思想の別もない。みんなが肩を組み、いちように笑い、同じく手を振り続けて…〉
これは亡き本田靖春さんが、若き読売新聞記者時代、1964年の東京オリンピック閉会式の模様を電話口で吹き込み、1面を飾った記事だ。
その記事の最後は〈電光掲示板に「サヨナラ」の文字があった。この使いなれたことばが、この夜ほど効果的に人びとの心をつないだことは、かつてなかったように思う〉と締めくくられている。
そこには、感染症で国民の命を危機にさらした失態を覆い隠そうという意図はない。先細る政治生命の延命を図る小ざかしさはない。
1964年東京オリンピックが、永遠に最後の東京オリンピックであり続けることを、私は切に願っている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年6月7日掲載)
| 固定リンク
「日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事
- 風化に抗い続ける未解決事件被害者家族(2024.11.27)
- 社会性 先見性のカケラもない判決(2024.11.13)
- 「なりふり構わぬ捏造」どれだけあるんだ(2024.10.30)
- 追い続けた寅さんに重なって見える(2024.10.16)
- どうか現実の世界に戻ってほしい(2024.10.02)