« 地道な記者活動 大久保真紀さん受賞に快哉 | トップページ | 現場主義と危険性の線引き »

2021年5月12日 (水)

裏に誰かいないのか 和歌山県警に焦りはないか

-紀州ドン・ファン殺害容疑-

 事件記者の大事な素養として、理不尽に人の命や尊厳が奪われたことに対する火の玉のような怒りと、事件を見つめる冷静な姿勢の2つがあると思う。

 和歌山県田辺市の資産家、野崎幸助さん(当時77)が殺害された事件について、私は現場も、県警への取材もしていない。遺産十数億円、これまで数千人の女性と関係。新聞、テレビが〝紀州のドン・ファン〟と書き立てた被害者の死に、火の玉のような怒りがどうしてもわいてこなかったのだ。

 だけど、事件から3年。月100万円の生活費を条件に結婚した50歳以上年下の須藤早貴容疑者(25)が、野崎さんに大量の覚醒剤を飲ませて殺害した容疑で逮捕されたとなると話は別だ。

 県警はスマホの復元履歴から早貴容疑者が田辺市内の覚醒剤密売人と連絡を取っていたことを確認したとしているが、いくらなんでも、この証拠1つで事件を組み立てていくのは無理だ。東京・新宿と田辺を行き来していた容疑者が人目につきやすい田辺で密売人と接触する必然性があったのか。

 そもそも美容学校を出て1年ほどの女性が1人でこれだけの事件を打てたのか。裏に誰かいないのか。まだまだ捜査を尽くして、相当の証拠で補強しない限り事件はひっくり返ってしまう。

 そんな中、妙な動きも出てきた。県警は早貴容疑者が野崎さんの会社の金、3800万円を詐取したとする告訴状を受理したというのだ。殺人容疑で起訴できないときには詐欺容疑で再逮捕という狙いだとしたら、捜査は本筋を逸脱する。

 たしかに世間の関心は強い事件、和歌山県警に焦りはないか。事件記者たちの冷静な目が求められている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年5月10日掲載)

 

|

« 地道な記者活動 大久保真紀さん受賞に快哉 | トップページ | 現場主義と危険性の線引き »

日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事