しんどくなったら 時には ななめに
-メディアと門出に立つ人へ-
春は出会いとともに別れの季節。新聞、テレビの世界では、いくつかの連載や番組が消えていく。朝日新聞で月1回、14年間続いた「池上彰の新聞ななめ読み」もその一つ。池上さんは「気づかぬうちに切れ味が鈍っていることがないように」と最終回に書いておられるが、柔らかな筆致で朝日に限らず、新聞各紙をななめに、いやいや縦横無尽に切ったコラムが消えるのは寂しくてならない。
いまも心に残ることがある。2014年、朝日新聞が従軍慰安婦問題で虚偽報道を認めたとき、「なぜ32年間も訂正しなかったのか。間違いを認めたら謝罪すべきではないか」とした池上さんの原稿を、朝日上層部が掲載を拒否。この対応に、ほかのメディアどころか朝日記者からも怒りが噴出。結果、池上さんにおわびして掲載することになった。
一方、私事で恐縮だが、昨年5月、朝日社員と産経記者の検察幹部との賭けマージャンが発覚した際、池上さんは私が毎日新聞に寄せたコメント、「いけないことだが、この件で記者の牙が抜かれてはならない」を取り上げ、「この問題を建前だけで論じてはいけない」と書いてくれた。
朝日と産経が起こした問題で、元読売の私が毎日に出したコメントを元NHKの池上さんが朝日に書く。こんなコラムは、池上さんだからこそ書けたのではないか。
最終回、池上さんは最近の紙面に「“お行儀”がよくなりすぎてはいないか。批判に耳を傾けすぎると矛先が鈍るのでは」と書かれている。そうそう、そしてしんどくなったら、時にはななめに構えて―。この春、門出に立ったみんなに贈る言葉にも思えてくるのだ。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年4月5日掲載)
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