夜の会食とは無縁の復興原動力
-東日本大震災10年-
日本には和食、洋食のほかに、もう1つ、会食というものがあるのか、と思うほどだ。先週、朝日新聞の「耕論」が「会食 政治は夜動く?」の見出しで、このテーマを取り上げていた。
元政治部記者が「人間性知るために不可欠」と言えば、旧民主党の元女性議員は「共犯関係の構造 今なお」。仲間意識の強い地方の町に、ひとり飛び込んだホタテ漁師は「村社会の外 出てみよう」。
さて私は、と言えば「一杯のコーヒーより一杯の酒」と先輩記者にたたき込まれ、取材先の幹部とサシメシ(1対1の食事)ができたと自慢していた世代。だけどいま、そんな思いを、ものの見事にひっくり返す光景が私の中に広がっている。
先日、発生から10年を迎えた東日本大震災。その被災から半年もたたないころ、復興の先頭を走る宮城の町を取材した。町の長老や中心人物に、トップを行く秘訣を聞くと、「還暦過ぎたら、金は出しても口出すな」。
30年40年後、この町にいそうもない人はお金だけ出して、これからの町づくりは、住んで、働いて、子育てしていく世代に任せよう。
そのとき「いま一番、町に来てほしい人は?」と聞くと、即座に返ってきた答えは「若者、よそ者、変わり者」だった。こういう人こそが未曽有の災害をひっくり返す原動力になるという。
でもね、はっきりしていることは、この人たちは8万円のステーキ、7万円の海鮮会席とはまったく無縁だ。そんな夜の席から若鮎が身を光らせて渓流を上っていくみずみずしい活力は生まれてこない。いま急激に私にこの思いが広がっている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月22日掲載)
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