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2021年3月

2021年3月31日 (水)

すてきで新しい新幹線アナウンスを

-緊急事態宣言解除から1週間-

 1都3県の新型コロナ緊急事態宣言が解除になって1週間。先週は各地で桜も満開。お花見に、卒業旅行。政府の「気を緩めずに」のメッセージも若い人を中心に、なかなか届かないという声が聞こえてくる。

 そういう私も大阪~東京間はまだだが、名古屋や静岡局のテレビ出演は解禁になって新幹線に乗る機会も増えた。でもね、先日、その新幹線の車内で、ちょっと首をかしげてしまった。

 発車して間もなく、車掌の「新型コロナウイルス感染予防について」のアナウンスが流れる。「車内では常時マスクを着用し…会話は控えめに…座席の回転はご遠慮ください…」。もうすっかり覚えてしまった、と思っていると、続いて「政府からのお願い。時差出勤やテレワークを行い、感染予防にご協力を」。

 ハテ、いくらなんでも、いまだにマスクの着用やテレワークはないだろうと調べてみると、車掌が読み上げるこの文言、去年の第1次緊急事態宣言どころか、その前の3月19日から1年以上まったく一緒。これでメッセージが届かないと嘆いていてどうするんだ。せめてワクチン接種の進み具合や、変異ウイルスの脅威を織り込んだ新しいバージョンができないものか。

 JR東海といえば、私がこれまでの人生で一番好きなCM、「そうだ 京都、行こう。」の2001年、仁和寺バージョン、「桜の開花がニュースになる国って、すてきじゃないですか」を流してくれたところ。どうだろう、春4月。いつの日かコロナに勝った私たちの国が目に浮かんでくるような、すてきで、新しい新幹線アナウンスを流してくれる気はないのかな。
 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月29日掲載)

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2021年3月24日 (水)

夜の会食とは無縁の復興原動力

-東日本大震災10年-

 日本には和食、洋食のほかに、もう1つ、会食というものがあるのか、と思うほどだ。先週、朝日新聞の「耕論」が「会食 政治は夜動く?」の見出しで、このテーマを取り上げていた。

 元政治部記者が「人間性知るために不可欠」と言えば、旧民主党の元女性議員は「共犯関係の構造 今なお」。仲間意識の強い地方の町に、ひとり飛び込んだホタテ漁師は「村社会の外 出てみよう」。

 さて私は、と言えば「一杯のコーヒーより一杯の酒」と先輩記者にたたき込まれ、取材先の幹部とサシメシ(1対1の食事)ができたと自慢していた世代。だけどいま、そんな思いを、ものの見事にひっくり返す光景が私の中に広がっている。

 先日、発生から10年を迎えた東日本大震災。その被災から半年もたたないころ、復興の先頭を走る宮城の町を取材した。町の長老や中心人物に、トップを行く秘訣を聞くと、「還暦過ぎたら、金は出しても口出すな」。

 30年40年後、この町にいそうもない人はお金だけ出して、これからの町づくりは、住んで、働いて、子育てしていく世代に任せよう。

 そのとき「いま一番、町に来てほしい人は?」と聞くと、即座に返ってきた答えは「若者、よそ者、変わり者」だった。こういう人こそが未曽有の災害をひっくり返す原動力になるという。

 でもね、はっきりしていることは、この人たちは8万円のステーキ、7万円の海鮮会席とはまったく無縁だ。そんな夜の席から若鮎が身を光らせて渓流を上っていくみずみずしい活力は生まれてこない。いま急激に私にこの思いが広がっている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月22日掲載)

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2021年3月17日 (水)

被災地に寄り添える…あのトマト

-「3.11」とコロナ禍を思う-

 3.11先週木曜日、東日本大震災は発生10年を迎え、私はテレビ朝日の「スーパーJチャンネル」特別番組に出演した。高台移転や震災遺構、さまざまなテーマを取り上げるなか、心に重くのしかかったのは、福島第1原発の廃炉作業で出る処理水の問題だった。

 放射性のトリチウムの残る処理水124万㌧は1061基のタンクに保管されているが、来年秋には満杯になる。これを後世に残すわけにはいかない。政府は基準以下に薄めて海洋放出するのが現実的としている。

 だがこの10年、福島の農業漁業は風評被害に泣かされ、漁獲量は今も震災前のわずか17%だ。そこに追い打ちをかけるのは目に見えている。

 3年ほど前に福島の「道の駅」に並んでいた、真っ赤なミニトマトが目に浮かんだ。ご一緒した町役場の方が「よがっだ。よその県のものと同じ値段だぁ」と声をあげたのだ。それまでは出荷しても福島産というだけで買いたたかれ、他の産地の半値、ときには2、3割で売られていたという。

 あの赤く熟れた福島のミニトマトをスタジオで思い出しながら、私は「震災から10年、誰もが心1つで被災地に寄り添えることがある」とコメントさせてもらった。

 それは、自分は決して風評被害の加害者にはならないと決意することだ。日本中の人がそう決心したら、あすにでも福島に対する風評被害は消えてなくなる。事件、事故。ある日、人は被害者になることは避けられなくても、加害者になることは心1つで避けられる。

 そのことはコロナ禍で起きるさまざまな差別についても同じなのではないだろうか。そんなことを感じる、あの日から10年であった。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月15日掲載)

 

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2021年3月10日 (水)

がんばれ、ぶら下がり取材の若手記者たちよ

-キレ気味の菅首相-

 首相と記者の間に、いい意味で緊張感が生まれているのではないか。いつも司会進行を務めていた7万円接待の山田真貴子内閣広報官が官邸での記者会見を欠席、その後辞任。小野日子氏が後任となるまで菅首相は立って記者の質問を受けるぶら下がり取材に応じた。

 これがなかなかの圧巻。特に、あわてて始めた最初のぶら下がりでは「この形式は山田氏隠しでは」と問われて語気を強めて「関係ない」と答えたものの、目は違うことを言っていた。その後も普段あまり質問の機会がない若手記者が見事なパス回し。進行役までさせられた首相は「先ほどから同じ質問ばかり」とキレ気味に取材を打ち切った。

 久々に小気味がいいなと思っていたら、なんとテレビで政治部出身のOBが「総理を怒らせる質問をしてどうするんだ!」。これには本当に倒れそうになりました。何十年も相手が喜ぶことだけ質問してきた記者かいることが恥ずかしい。

 かと思うと、あるフリー記者は「山田元広報官は会見で質問を打ち切るかわりに、あとでメールで質問を受けつける画期的な形にした」。

 この人も恥ずかしい。記者会見というのは、質問と答えがその場はもちろん、読者視聴者にもオープンに伝わるもの。1対1のやりとりの、どこが画期的なんだ。 

 がんばれ、ぶら下がり取材の若手記者。私が記者になりたてのころ先輩が教えてくれた、アメリカ合衆国独立の時代に人々がよく口にしていたという言葉を思い出す。「新聞のない民主国家と新聞のある独裁国家だったら、私たちは断固、後者を選ぶ」。

 さて菅首相はどちらだ。「新聞のない独裁国家」だったりして。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月8日掲載) 
 

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2021年3月 3日 (水)

「忘れた」が通用するほど日本の司法は甘くない

-首相長男の総務省接待問題-

 こんな調査で逃げ切られてはたまらない。菅首相の長男、正剛氏(首相によると40歳ぐらい)が勤める放送関連会社「東北新社」が総務省幹部を飲ませて食わせて、延べ38回接待していた問題で、武田良太総務相は11人を減給などの処分にするとともに調査結果を発表した。

 それによると総務省幹部も長男の会社も「その席で業務の話は一切出ませんでした」とか。当たり前だろ。どこの世界に接待の場で「いっぱいお願いごとをされました」「いっぱいお願いしちゃいました」と認めるバカ正直者がいるか。

 こうした事案の捜査に着手したばかりの検事の「まず、まわりをつぶしていく」という言葉を思い出す。東北新社のような放送関連会社は、業界団体の「衛星放送協会」加盟社だけでも82社。検察は総務省幹部を接待したことがあるかないか、1社ずつつぶしていく。

 もし東北新社と同じように総務省幹部を年平均8回も接待していたら、82社で年に656回。幹部はみんなぶっ倒れているはずだ。なぜ長男の会社がこれほど接待できたのか。外堀はどんどん埋まっていく。

 贈収賄で立件するには合計50万円余りでは少ないと、したり顔で言う識者もいるが、かつて防衛省幹部の夫が接待されたゴルフに12回同行して逮捕された妻もいる。基礎年金約1カ月分の受給額を一晩で飲み食いして「暑気払いや忘年会でした」で通るか。

 早くも市民団体が検察に告発した。不起訴になっても検察審査会が待っている。「忘れた」と突っぱね、ウソがばれると「自分の記憶力の乏しさ」とトボける。やせても枯れても、その手が通用するほど、日本の司法は甘くない。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年3月1日掲載)

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