五輪開催国の資質が今問われている
-組織委混乱の本質-
後任人事ばかりに目が移ってしまった東京五輪・パラリンピック組織委員会の混乱。森前会長の女性差別発言と、同時に起きた周囲の笑い声。問題の本質は置き去りにされたままではないのか。
新聞社の社会部時代、被差別部落に生まれた女性から届いた1通の手紙がきっかけで、さまざまな差別と向き合ってきた。部落差別をはじめ性差別、障がい者、他民族、他国籍、職業に対する差別。差別した側と差別された側が激しくぶつかる話し合いの場も取材した。
差別的な言動があったにもかかわらず、否定して逃げようとする人。口先だけの謝罪でその場を逃れようとする人。中には居丈高に虚勢を張って絶対に反省しようとしない人もいて、話し合いはときには2年、3年かかることもあった。
もちろんしんどくて、決して心浮き立つ取材ではない。だけどあるときを境に、突き抜けて晴れ晴れとした気持ちにさせられることもある取材だった。
これ見よがしに差別的な言動を繰り返す人を前に、いつからそうした差別的な気持ちが浮かんできたのか。何かきっかけがあったのか。ぐちゃぐちゃにこんがらがった毛糸を丹念に丹念にほどいていく根気のいる作業。だが、あるとき毛玉がスーッと1本の糸になる。虚勢を張っていた人が清々しい声で反省を口にする。人間はみんな生まれたときは、まっすぐな糸だったことを思い知らされる瞬間だ。
五輪組織委員会が、そして私たちの社会が、今回、そういう作業をしただろうか。コロナ禍のもとでの開催の是非を問う前に、平和と自由と平等を憲章にうたった五輪を開くにふさわしい国かどうか、それが問われている。
(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年2月22日掲載)
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