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2021年2月

2021年2月24日 (水)

五輪開催国の資質が今問われている

-組織委混乱の本質-

 後任人事ばかりに目が移ってしまった東京五輪・パラリンピック組織委員会の混乱。森前会長の女性差別発言と、同時に起きた周囲の笑い声。問題の本質は置き去りにされたままではないのか。

 新聞社の社会部時代、被差別部落に生まれた女性から届いた1通の手紙がきっかけで、さまざまな差別と向き合ってきた。部落差別をはじめ性差別、障がい者、他民族、他国籍、職業に対する差別。差別した側と差別された側が激しくぶつかる話し合いの場も取材した。

 差別的な言動があったにもかかわらず、否定して逃げようとする人。口先だけの謝罪でその場を逃れようとする人。中には居丈高に虚勢を張って絶対に反省しようとしない人もいて、話し合いはときには2年、3年かかることもあった。

 もちろんしんどくて、決して心浮き立つ取材ではない。だけどあるときを境に、突き抜けて晴れ晴れとした気持ちにさせられることもある取材だった。

 これ見よがしに差別的な言動を繰り返す人を前に、いつからそうした差別的な気持ちが浮かんできたのか。何かきっかけがあったのか。ぐちゃぐちゃにこんがらがった毛糸を丹念に丹念にほどいていく根気のいる作業。だが、あるとき毛玉がスーッと1本の糸になる。虚勢を張っていた人が清々しい声で反省を口にする。人間はみんな生まれたときは、まっすぐな糸だったことを思い知らされる瞬間だ。

 五輪組織委員会が、そして私たちの社会が、今回、そういう作業をしただろうか。コロナ禍のもとでの開催の是非を問う前に、平和と自由と平等を憲章にうたった五輪を開くにふさわしい国かどうか、それが問われている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年2月22日掲載)

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2021年2月17日 (水)

命の危険 いまや感染者と一般市民双方に

-医療崩壊について- 宣言解除の前に…

 大阪の自宅の近所のおばあさんが腸の手術をして退院。その後再入院が必要になったが、病院は新型コロナ患者が重症化、手いっぱいで受け入れられないという。

 その大阪では吉村洋文知事が国の緊急事態宣言を、なんとか大阪で前倒し解除ができないかと専門家と議論を重ねたが慎重論が多く、今週、再度協議することになった。大阪は飲食店への時短要請なども全国に先駆けて実施。その分、府民に重い負担をかけた。解除できるなら早くしたいという知事の思いはわかる。

 だが解除先送りの結論に、私が出演している報道番組に届いた府民の声は大半が「当然」あるいは「正解」だった。その理由の多くが重症ベッドの窮迫というより、すでに起きている医療崩壊だ。大阪では先月、コロナ感染で入院が絶対条件の90代女性と60代の娘が、なぜか自宅療養。結果2人とも亡くなっている。

 大阪だけではない。やはり宣言の早期解除を目指す愛知、岐阜。岐阜ではコロナ感染の高齢男性が入院予定の日の早朝、容体が急変。だが受け入れ先が見つかるまでに3時間かかり、その間に死亡した。愛知では私の出演番組が密着取材している総合病院の副院長が「救急患者の受け入れを拒否したことがなかったのに、力尽きて初めてお断りしました」と肩を落としていた。

 命の危険は、いまではコロナ感染者と一般の市民双方に襲いかかっているのだ。

 明け方、家の近くで停まった救急車のサイレンに起こされる。20分、30分…受け入れ先がやっと決まって遠ざかるサイレンにホッとする。宣言解除の前になすべきことは、まず、こんな医療からの脱却ではないのか。 

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年2月15日掲載)

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2021年2月10日 (水)

ハナっから自粛する気なんてないんだろうな

-勘違い銀座トリオ- 首相なぜ一喝しない 

 緊急事態宣言中、つるんで遊んでいたことが結局バレて自民党を離党させられた銀座トリオ。首相の「国民のために働く。」のポスターの前で謝罪したうちの1人、大塚高司議員(56)は私の住む大阪8区(豊中市)の選出だ。髪をまっ二つに分けた頭を神妙に下げてみせたこの議員。だけど、とんでもない勘違い男だ。

 「自粛を我々からお願いしておいて、このたびこういう事例が出たことを本当に申し訳なく思っております」

 「こういう事例が出た」という言いぐさでは、まるでひとごと。「とんでもないことをしでかしてしまって」と言うのが筋だろう。それより何より「我々から自粛をお願いしておいて」とは、これまた何ごとだ。

 一体、どこに「議員の先生にお願いされたから」と会食や外出を控えている人がいるというのか。みんな大切な家族、恋人、友人、そして何より自分の命を守るために歯をくいしばって我慢しているのではないか。

 そうした約束事を破って女性と食事をし、深夜までクラブ遊びをする。この「みんなが何を決めようと、俺らハナっから守る気なんてないからね」という銀座トリオの発想は、飛行機内であろうとマスクは絶対につけないと暴れて逮捕された男と一緒ではないか。

 党総裁でもある菅首相は離党させるにあたって、なぜ「私までだましてそれですむか。議員もやめろ!」と一喝しなかったのか。

 いまだに議員バッジを外さない勘違い男が党の府連会長までつとめた大阪では、クラブ遊びが発覚した1月、新型コロナによる死者数は過去最多。東京を上回って全国最悪となり、いまもワースト記録が続いている。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年2月8日掲載)

 

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2021年2月 3日 (水)

首相の「答弁力」もですが…報道陣も「質問力」に磨きを

-なぜ記者は別のパンチを出さないの-

 TBSテレビ「ひるおび!」で時々、ご一緒する鎌田靖さんが近著、「最高の質問力」(PHP新書)を贈ってくださった。鎌田さんはNHKで社会部記者や解説副委員長、「週刊こどもニュース」の2代目お父さんをつとめたベテランジャーナリスト。

 どうやって取材相手と信頼関係を築くのか。本音を引き出すか。いまも試行錯誤する姿に「あの鎌田さんでさえ」とうなずいたり、ひざを打ちながら読み進む。

 では翻って私たちの報道はどうだ。コロナ禍で医療現場が疲弊、政府への批判が噴出する中、元厚生官僚たちがテレビ出演。「コロナ禍に協力している病院はたった4%。それに大多数の医者は、いまも優雅に暮らしている」とののしる。

 ならば、なぜ早くからそのことを指摘しなかったのか。なぜ政権が追い詰められてからの発言なのか。その点を質問したキャスターを、いまだ私は見たことがない。

 政権幹部の自民党議員が緊急事態宣言の中、銀座のクラブを3軒もハシゴした。議員はカメラの前で臆面もなく、「店の要望陳情を聞くために昼間時間がとれず夜、動くことになった」。

 こんな弁解にムキになることはない。ただ著書の中で鎌田さんもいらだっているが、なぜ記者は別のパンチを出さないのか。「あなたに1票を投じた選挙区の方はこの説明で納得しますか」と切り返したら、まさか「みんなそれで納得する人たちです」と有権者を小バカにした答えはできまい。

 収束の見えないコロナ禍の下。首相の「答弁力」もさることながら、同業者のみなさん、私たちの「質問力」にも、もう少し磨きをかけようではありませんか。

 

(日刊スポーツ「フラッシュアップ」2021年2月1日掲載)

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