日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
性接待強要され「汚れた女」と…掟破り告白の理由
-世の心に届く伝え方を-
師走の東海テレビニューススタジオ。若い女性アナが声を詰まらせると同時に、涙をあふれさせた。この日、彼女は岐阜の山間に住む95歳の佐藤ハルエさんについてリポートしていた。
戦時中、ハルエさんは岐阜県黒川村開拓団として旧満州(中国東北部)吉林省に入植したが、間なしに敗戦。男は関東軍に取られ、年寄りと女性子どもだけになった開拓団を現地人が襲う。そこにソ満国境を越えてソ連軍が侵攻。日夜、現地人の来襲におびえる団はソ連兵に警護を依頼する。
だがソ連兵が出してきた条件は「女性を差し出せ」。苦渋の選択を迫られた団は、泣き叫ぶ未婚の女性15人を説得。ときにはマイナス30度にもなる極寒の地で、ハルエさんは「ただただ身を固くして耐えた」という。
この性接待の事実は開拓団も女性たちも口にしないことが掟。だが帰国したあと、ハルエさんたちに浴びせられた言葉は「汚れた女」だった。逃げるように村を出たハルエさんは山間に新たな開拓地を求めたのだ。
ずっと封印してきたこの体験をハルエさんが口にしたのは、ほんの7年ほど前。「なぜこんな辛いことを私たちに」という女性アナたちにハルエさんが決まって口にする言葉は「だって、あなたは方は世の中に伝えることができる人でしょ」。
あの戦争から75年目の年も、残すところ2日。コロナに明け、コロナ暮れるこの年の未曽有の禍を、桜疑惑を、学術会議をめぐる思想統制を、しっかりと世の中に伝えることができただろうか。そして来年こそ、世の中のみんなの心に届く伝え方を。
本年もコラムのご愛読ありがとうございました。みなさま、どうぞよいお年を。
(2020年12月29日掲載)
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