日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
「クマ射殺報じるな」に思うこと
-人同士いがみあってどうする-
この秋、何度このニュースを伝えたことか。そのたびに胸が痛む。環境省が先週、4月~9月の全国のクマ出没情報が1万3670件で、過去最多となったと発表した。秋田、新潟では襲われて2人が亡くなり、石川県加賀市では人の出入りの多い大型商業施設にまでクマが入り込んだ。
その地域の方々の恐怖はどれほどだったか。そんな被害を未然に防ぐ意味もあってニュースにするのだが、最近、やりきれないことが起きている。自治体から「クマを射殺した」という結末までは報じてくれるな、という要請がくるのだ。町や村、それに猟友会にまで「かわいそう。なんで殺した」という電話やネット上の非難が相次ぎ、猟友会の中には「出動したくない」という人も出てきたという。
私も動物は大好きだ。だがそれとこれとは違う。元はといえば戦後、国産材の増産だとして、クマやサルが大好きな実がなるブナやミズナラの木を切り倒してスギとヒノキの山にしてしまった。その結果、クマたちは慢性的なエサ不足。スギやヒノキの若芽が好物のシカは大繁殖してしまった。
さらに減反政策と急激に進む地方の過疎化。クマと人の境界にあった里山は荒れ果て、空き家の庭にはクマが大好きなカキやクリ、ミカンが実っている。これらはみんな、人間の予期せぬ失敗から始まっている。
それなのに、人と人がいがみあっていてどうするんだ。せめて里山の手入れや、残された果樹の伐採に追われる町を村を、寄付などで応援できないものか。
山に小雪が降るころ、長い冬眠に入るクマたち。静かな、静かな里の秋は、もう目の前だ。
(2020年11月3日掲載)
| 固定リンク
「日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事
- 風化に抗い続ける未解決事件被害者家族(2024.11.27)
- 社会性 先見性のカケラもない判決(2024.11.13)
- 「なりふり構わぬ捏造」どれだけあるんだ(2024.10.30)
- 追い続けた寅さんに重なって見える(2024.10.16)
- どうか現実の世界に戻ってほしい(2024.10.02)