日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
「任命せず」の向こうに待つ暗闇
-学術会議新会員問題-
だれもがことの本質に気づいていないのか。それとも気づいていて、そこから目をそらしているのか。
先週、菅首相は日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題で「初めて名簿を見た時から105人の候補のうち99人の名前しかなかった」と明らかにした。とすると学術会議が総会で決定、8月に内閣府に提出した105人の候補の中から6人を「任命すべきではない」と削除したのは内閣府ということになる。
本当なのか。今回任命を拒否された6人は、いずれも安保法制に反対する会の賛同人だったり、辺野古埋め立てに抗議するなど政権に批判的な学者ばかりだ。内閣府が105人の候補の論文や研究テーマ、日ごろの活動。それらを2カ月足らずで把握、任命の可否を決定することが果たして可能だったのか。絶対に無理だ。
では、それを可能にしたのはだれか。私たち公安事件に関わることが多い者でなくても、この国の情報諜報機関の存在に気づくのではないか。警察庁警備局を頂点とする全国の公安警備警察。それに公安調査庁、軍事機密の自衛隊情報保全隊、内閣情報調査室(内調)、さらには国家安全保障局。
これらの情報機関の存在なしに今回のことはあり得ない。その結果、首相に届く前に6人の名前が抹消されていたとすると、背筋がゾクッとなるではないか。
首相の選挙区とは関わりなく「横浜事件」が思い浮かぶ。1人の学者の論文をきっかけに特高警察が60人を逮捕。すさまじい拷問の末、4人か獄死した戦時下、最悪の言論弾圧事件。今回の「任命せず」の向こうにも、そんな暗闇が待ち構えているように思えてならない。
(2020年10月13日掲載)
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