日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
わけのわからない伝承と継承
―大事な検証が蹴り出されている―
〈「事実を話してください」と言っているのだから、「言わないで」と言われる筋合いはない〉― 朝日新聞の「語れない『語り部』 福島双葉 震災・原発事故『伝承館』 『被害者の私たち 東電や国批判できぬのか』」の見出しの記事に、ああ、やっぱりなあ、とため息が出てきた。
「伝承館」は、この春、やっと町面積の4・6%が避難指示解除となった双葉町に実質的に国が復興予算53億円を投じて建設、9月20日にオープンした。「発生前の生活」、「直後の対応」、「復興への挑戦」など6つのコーナーに分かれている。私も3月初め震災9年を前に双葉町を取材。洗濯機やタイヤ、風呂おけ。震災ゴミの山の向こうで建設中の巨大ビルに何とも言えない違和感を覚えた。
伝承館には原発事故被害者ら29人が語り部として登録され、見学者に1時間ほどの口演を行っている。だが、国からの出向者もいる館の職員は、語り部に「特定の団体、個人への批判、誹謗中傷は口演に含めない」と条件をつけ、語り部が答えるのに適さない質問には職員が答えるとしている。
もちろん誹謗中傷はあってはならないが、東電や国の責任を指摘した語り部は口演内容の変更を求められ、早くも「自分の思いを伝えることが批判に当たるならば語り部を辞めたい」という人もでている。
朝日新聞の「特定の団体に、国や東電は含まれているのか」という質問に対して館側は「そうだ」と答えている。
一体、国は伝承館で何を伝承しようとしているのか。
一方、こちらは伝承ではなく継承。「安倍政権をしっかり継承する」としている菅新内閣。それなのに内閣の基本方針から、「東日本大震災からの復興」の文言が「たまたま」スッポリ抜け落ちていたという、継承にあるまじき大失態。
ところが、菅新首相が「私の代ではやらない」と断言した「桜を見る会」は、その翌日に、この会への安倍前首相の招待状を広告に使って、お年寄りたちから命金をだましし取っていたジャパンライフの会長、幹部の一斉逮捕。だけど招待状の件は安倍政権をそのまんま継承して、加藤新官房長官は、「桜を見る会の過去の見直しは、行わない!」。
わけのわからない伝承と継承が、この国から大事な検証を蹴り出している―
(2020年9月29日掲載)
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