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2020年10月

2020年10月29日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

だらしない国のたらい回し文化
-国勢調査とコロナに思う-

 10月18日、日曜。大阪・豊中市のわが家のポストに[至急]と赤字で書かれた督促状が入っていた。「国勢調査の調査票を至急ご提出ください! 調査には回答の義務があります」とある。いきなり「義務だ」とは随分な言い方ではないか。

 それに、だ。わが家は調査員への提出やネット回答を避け、個人情報が確実に守られそうな郵送にして10月4日に投函している。いくら「すでに提出されて行き違いの場合はご容赦を」と書かれていても、2週間もたっての行き違いはなかろう。

 月曜の朝、市のコールセンターに電話すると、応対した女性は「いま、そうしたお問い合わせが殺到していて担当者が電話しますが、いつになるかはわかりません」。夜7時すぎにやっとかかった市の担当者によると総務省統計局国勢調査実施本部が一括管理。届いた回答によると、わが家の調査票は「10月8日18時到着」となっているという。

 大阪から東京への郵便物が4日もかかるとは思えないが、8日に届いていたのに18日に督促状とはどういうことだ。担当者によると、国の実施本部の作業が遅れに遅れ、到着から10日たっても提出済みにならず、市町村に「督促状の配布を」の指示がきてしまったという。

 コロナ禍緊急事態のころを思い出すではないか。保健所に電話をすると、「国のコールセンターだ」。国に電話をすると、「こっちは手がまわらない。保健所に言ってくれ」。その間、どれほどの死者、重症者を出したことか。私たちの国は、いつからこれほど無能で、だらしなくなったのか。

 寒気が迫ってくるなか、コロナ感染者数が不気味に増え続けている。

(2020年10月27日掲載)
 

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2020年10月22日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「高齢者免許保証人制度」導入を
-年寄りのわがまま、極まれり-

 東京・池袋で昨年4月、車を暴走させ、当時31歳の母と3歳の娘を死亡させたうえ、9人に重軽傷を負わせた元通産官僚、飯塚幸三被告(89)の裁判で、飯塚被告はおわびの言葉を口にしたものの、事故原因は車の欠陥として無罪を主張。被害者の遺族は「だったら謝ってほしくなかった」と唇をふるわせている。

 だが、いま法曹関係者から届く声は「判決確定時には90歳。有罪になっても執行猶予」というものが大半だ。とすると、飯塚被告は身をもって償いをすることなく、生涯を終えることになる。それでいいのか。

 一方、この事故のあとも、高齢ドライバーによる死亡事故や暴走があとを絶たず、あげくには免許返納を説得する家族に対する傷害事件。私も高齢者のひとりだが、「年寄りのわがまま、極まれり」という気がする。

 そんななか、私が最近テレビ番組のコメントや司法関係者との会話で折に触れて、これはどうか、と訴えているのが「高齢者免許保証人制度」だ。小難しい話ではない。例えば高齢者の場合、親族だったら2人、親族以外だったら3人以上の保証人がつくことを条件に免許を交付するのだ。

 保証人のなり手がなければ高齢者はあきらめがつくだろうし、一方で保証人を引き受ける息子や娘は「高速道は不可。一般道に限る」「運転は昼間のみ」といった法律的にはなかなか難しい条件もつけることができるのではないか。

 車がないと日常生活もままならない地方の事情もわかる。だが、池袋事故で残されたパパの誕生日を祝うありし日の母と娘の映像に、お年寄りもこのくらいの条件は良しとしようよ、と思うのだ。

(2020年10月20日掲載)
 

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2020年10月15日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「任命せず」の向こうに待つ暗闇
-学術会議新会員問題-

 だれもがことの本質に気づいていないのか。それとも気づいていて、そこから目をそらしているのか。

 先週、菅首相は日本学術会議の新会員候補6人を任命しなかった問題で「初めて名簿を見た時から105人の候補のうち99人の名前しかなかった」と明らかにした。とすると学術会議が総会で決定、8月に内閣府に提出した105人の候補の中から6人を「任命すべきではない」と削除したのは内閣府ということになる。

 本当なのか。今回任命を拒否された6人は、いずれも安保法制に反対する会の賛同人だったり、辺野古埋め立てに抗議するなど政権に批判的な学者ばかりだ。内閣府が105人の候補の論文や研究テーマ、日ごろの活動。それらを2カ月足らずで把握、任命の可否を決定することが果たして可能だったのか。絶対に無理だ。

 では、それを可能にしたのはだれか。私たち公安事件に関わることが多い者でなくても、この国の情報諜報機関の存在に気づくのではないか。警察庁警備局を頂点とする全国の公安警備警察。それに公安調査庁、軍事機密の自衛隊情報保全隊、内閣情報調査室(内調)、さらには国家安全保障局。

 これらの情報機関の存在なしに今回のことはあり得ない。その結果、首相に届く前に6人の名前が抹消されていたとすると、背筋がゾクッとなるではないか。

 首相の選挙区とは関わりなく「横浜事件」が思い浮かぶ。1人の学者の論文をきっかけに特高警察が60人を逮捕。すさまじい拷問の末、4人か獄死した戦時下、最悪の言論弾圧事件。今回の「任命せず」の向こうにも、そんな暗闇が待ち構えているように思えてならない。

(2020年10月13日掲載)

 

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2020年10月 8日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

禍をはね返すスポーツの力を思う
-戦後初の甲子園1番打者の死-

 黒田脩さんのことをいま1度書かせていただく。1946年(昭21)、西宮球場で復活した全国中等学校優勝野球大会、いまの夏の甲子園の戦後初の1番バッター。そして私の恩師、黒田清さんの実の兄。8月31日、91歳で亡くなられ、先週、大阪のリーガロイヤルホテルでお別れ会が開かれた。

 穀物卸の事業に尽力される一方で学生野球の発展に力を注いだ生涯。新型コロナ禍の中、400人もの方が参列された。私は当日、テレビ出演と重なり、ビデオでお別れの言葉を届けたあと、献花に駆けつけた。

 会は黙祷のあと各界の方が弔辞を読まれ、元阪神監督の吉田義男さん(87)は、日刊スポーツ編集委員の寺田博和さんによると、〈「野球が戦後復興期の苦難の時代から国民的スポーツになったのは、黒田さんのような情熱のある野球人が支えてきたからです」と語りかけた〉と本紙電子版に書かれていた。

 ABCテレビの名アナウンサー伊藤史隆さんは「野球に対する熱気、若者を慈しんだ人生。思い出の写真コーナーで阪神・淡路大震災の痕跡が残る甲子園球場で語り合う脩さんと清さんのツーショットに、しばし動けませんでした」とメールをくださった。

 戦争に、震災に、コロナ禍に、押しつぶされようとも、それをはね返すスポーツと、スポーツを愛する人々の力をあらためて思う。

 ご家族から「お墓に刻む一文を」とお願いされて、僣越極まりないと承知のうえで、こんなことを書かせていただいた。

 球児の夏 戦後初の1番バッターは 平和を尊び 野球を愛し いまここに 静かにバットを置く 

(2020年10月6日掲載)

 

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2020年10月 1日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

わけのわからない伝承と継承
―大事な検証が蹴り出されている―

 〈「事実を話してください」と言っているのだから、「言わないで」と言われる筋合いはない〉― 朝日新聞の「語れない『語り部』 福島双葉 震災・原発事故『伝承館』 『被害者の私たち 東電や国批判できぬのか』」の見出しの記事に、ああ、やっぱりなあ、とため息が出てきた。

 「伝承館」は、この春、やっと町面積の4・6%が避難指示解除となった双葉町に実質的に国が復興予算53億円を投じて建設、9月20日にオープンした。「発生前の生活」、「直後の対応」、「復興への挑戦」など6つのコーナーに分かれている。私も3月初め震災9年を前に双葉町を取材。洗濯機やタイヤ、風呂おけ。震災ゴミの山の向こうで建設中の巨大ビルに何とも言えない違和感を覚えた。

 伝承館には原発事故被害者ら29人が語り部として登録され、見学者に1時間ほどの口演を行っている。だが、国からの出向者もいる館の職員は、語り部に「特定の団体、個人への批判、誹謗中傷は口演に含めない」と条件をつけ、語り部が答えるのに適さない質問には職員が答えるとしている。

 もちろん誹謗中傷はあってはならないが、東電や国の責任を指摘した語り部は口演内容の変更を求められ、早くも「自分の思いを伝えることが批判に当たるならば語り部を辞めたい」という人もでている。

 朝日新聞の「特定の団体に、国や東電は含まれているのか」という質問に対して館側は「そうだ」と答えている。

 一体、国は伝承館で何を伝承しようとしているのか。

 一方、こちらは伝承ではなく継承。「安倍政権をしっかり継承する」としている菅新内閣。それなのに内閣の基本方針から、「東日本大震災からの復興」の文言が「たまたま」スッポリ抜け落ちていたという、継承にあるまじき大失態。

 ところが、菅新首相が「私の代ではやらない」と断言した「桜を見る会」は、その翌日に、この会への安倍前首相の招待状を広告に使って、お年寄りたちから命金をだましし取っていたジャパンライフの会長、幹部の一斉逮捕。だけど招待状の件は安倍政権をそのまんま継承して、加藤新官房長官は、「桜を見る会の過去の見直しは、行わない!」。

 わけのわからない伝承と継承が、この国から大事な検証を蹴り出している―

(2020年9月29日掲載)

 

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