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2020年9月 3日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

考慮でも思慮でもない「賢慮」を求める
-安倍首相辞任後のこの国で…-

 その健康状態がコロナ禍下の政治に無用の混乱を招かぬよう賢慮を求めたい―。安倍首相が突然の辞任表明するその朝、毎日新聞のコラム「余録」はこう書いた。

 考慮でも思慮でもない、聞き慣れない「賢慮」という言葉に急いで辞書を引くと「賢明な考え」とあった。

 この日の東海テレビ「ニュースOne」は当然、特番体制。1時間を超える首相会見をつぶさに聞いて、やはり賢慮の結果という思いを深くした。

 同時に在任7年8カ月という日々をねぎらいつつ、だからと言って病魔による辞任にメディアが筆鋒を鈍らすことがあってはならないと強く思うのだ。

 はっきり言って安倍投手、連打を浴びてマウンド上でフラフラだった。民意を圧殺した安保法制に共謀罪。森友・加計問題に「桜を見る会」。いずれも間違いなくピッチャー交代の場面だったのだが、悲しいかな、このチームには「後ろ」がいない。だが、その後に襲ってきた新型コロナ。ウイルスという自然界の猛威に、うそやごまかし、それにごり押しや言い逃れは通るはずがない。

 その結果、感染者数は韓国、台湾、香港、タイ、ベトナムよりはるかに多く、10月には中国も超えるのでは、という東アジア最悪の感染国となってしまった。

 だが、深刻な事態はまだある。国民にこれほど、国政に対する不信感どころか嫌悪感まで抱かせてしまった政権はない。野党の追及に、唇をふるわせて必死に抗弁してきた官僚の虚偽答弁や文書改ざんがバレると、かばうどころか処分までして切って捨てる。

 そんな官僚と自らの正義の板挟みになって命を絶った役人のご家族を弔問した政権幹部は、首相はもちろん、いまだひとりもいない。

 こうした政界と官界の姿に、キャリア官僚を目指す学生はこの政権下、激減した。若者たちが、この国に夢をもつどころか、その行く末にさえ関心を持たなくなっているのだ。政権の罪深さはここにもある。

 ともあれ、マウンドを降りる投手のお尻をグラブでポンとたたいて試合再開。首相辞任から一夜明けて、朝日新聞の政治部長はこう書く。〈―誰が首相に就こうと、荒れた政治のグラウンドを、丁寧にならすことから始めないといけない〉
 
 そのグラウンドを縦横に、そして賢慮に走り回るのは、私たちでなければいけない。

(2020年9月1日掲載)

 

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