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2020年8月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「生き地獄から解放されて生き続ける」道を
-ALS女性嘱託殺人への思い-

 「この事件で安楽死の是非を問うのは、性急だと思います」―。先日、このコラムでも取り上げた医師2人による難病ALS女性に対する嘱託殺人。自身もALSと闘っているサッカーJ3岐阜(FC岐阜)の元社長、恩田聖敬さん(42)が東海テレビのニュース番組で思いを語ってくださった。

 恩田さんは企業の役員を経験されたあとFC岐阜の社長になって、ラモス瑠偉さんや川口能活さんを招き、ふるさと岐阜の県民に「子どものようにかわいがられるチーム」を目指したが、ALSを発症。4年前、志半ばで社長を退任した。

 ベッドで人工呼吸器をつけ、ヘルパーさんが掲げる文字盤の文字を表情で指定、文章にして記者の質問に根気よく丁寧に答えてくれる。

 ――逮捕された医師は難病の患者は生きている意味がないと言っていますが。

 「もし、自分自身や大切な人がそうなっても同じことが言えますか? ためらいなく殺せますか? と問いたいです。とはいえ私も健常者のままだったら、今回の件をこんなに重くとらえなかったかもしれません」

 ――亡くなられた女性には、どんな思いを

 「ALSとともに生きるのはたやすいことではない。それは当事者の私自身がよく理解しています。生き地獄から解放されたいという思いは心底わかります。ただ解放される手段が『死』しかなかったのか。命を保ちながら彼女の心のケアをする選択肢はなかったのか。無念でなりません」

 だが、ALSの患者は数年で呼吸機能を失い、人工呼吸器をつけて生き続けるか、拒絶して死を選ぶかを迫られる。日本では約7割の患者が死を選択しているのが現実だ。恩田さんは、自身のブログにこうも書く。

 「生き地獄を味わいながら生きるか。解放されるために死を選ぶか。私はそのどちらでもない、『生き地獄から解放されて生き続ける』を選びます。彼女のまわりに、ひとりでもこの『第3の選択肢』を本気で提案する人がいれば、結末は変わったかもしれません」

 もとより人の生き死を軽々に語ることはできない。ただ7割の人が死を選ぶ現実を少しでも変えることはできないか。ひとりでも多くの人が恩田さんのように生き地獄から解放されて生き続ける道を選べないか。投げかけられた命題は、重い。

(2020年8月11日掲載)

 

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