日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
50年の大計画より まず高台へ
-豪雨被害の熊本に心が痛む-
治水環境保護か
大阪でも夜半、激しい雨音に跳び起きる日が続いた先週。九州、とりわけ60人以上もの死者を出した熊本に心が痛む。2008年、そのときで計画から実に41年。私は治山治水か、それとも1尺(30㌢)もある尺アユが生息する環境保護かで揺れ続けた川辺川ダムの取材で球磨川流域の人吉市、相良村、五木村を走り回った。
そのころ、すでに世の中の流れは脱ダム。巨大巨額のダム建設より自然保護へと大きく傾いていた。そうしたなか2009年、国も県もダムの計画中止を打ち出したのだが、もちろん日本3大急流の1つで暴れ川ともいわれる球磨川がおとなしくなったわけではない。
国と県はダムに替わって川幅の拡張、川底の掘削、遊水地の整備などを打ち出したが、工事の総額は一説には1兆2000億円。支流まで含めると全工事完了には50年かかる大プロジェクト。県幹部が「計画だけで、この10年、何もできなかった」というなかで起きた今回の大災害。どちらかというとダム反対、自然保護を訴えるみなさんの声に耳を傾けてきた私は胸が痛む。
被災した中で14人のお年寄りが命を落とした球磨村の特養施設、「千寿園」。100歳を越える方を含め70人が入所する建物は、ハザードマップの危険地域ではないが、球磨川と支流の小川の合流地に建っていた。早朝、職員や近所の方が車いすのお年寄りなど40人を2階に上げたところに窓を破って濁流が流れ込んだ。
2016年、台風の豪雨のなか職員が肩車してお年寄りを助けようとしたが、9人が犠牲になった岩手県岩泉町のグループホームも、やはり小川に面していた。
この災害後、国交省は川沿いの施設などに「避難確保計画」の作成を義務づけたが、作成した施設は全国で45%、熊本ではわずか5%。まさに字面だけの通達だ。そんな実現困難な計画を作成させるより、川に近い施設の高台移転を進めたらどうだ。最も危険な施設から順次、移転するとして50年はかかるまい。移転に1・2兆円もかかるとは思えない。
私たちは、水から身を守るには、まず高台へということを東日本大震災で学んだのではなかったのか。実現不可能な計画より、できる事業から進めようじゃないか。「百年河清俟(ま)つ」の箴言は、いまに生きていると思うのだ。
(2020年7月14日掲載)
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