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2020年6月 4日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

司法とメディアの立ち位置とは
-京アニ報道で思うこと-

 このところ司法とメディアの関係というと、検察幹部と新聞記者の賭けマージャンばかりが話題だが、先週は京都アニメーション放火殺人事件の青葉真司容疑者(42)の逮捕で、お互いの立ち位置についてあれこれ考えさせられた。

 逮捕の日は大阪でテレビの出演日だったが、京都市内の病院の映像を早朝、ヘリからテレビ、新聞が撮影。ただ病院名も青葉容疑者が乗った介護車両の伏見署までのルートも極秘。それでもストレッチャーに乗せられて署に入る容疑者の顔や、やけどのあとも生々しい両腕は新聞、テレビともにしっかり映像に収めていた。

 その後の送検は検察官が伏見署に出向いて行い、裁判所の勾留尋問のあと、すぐに大阪拘置所に向かうという異例の措置。拘置所に向かったのは番組のオンエア中だったが、到着まで行き先は報道しないという徹底ぶりだった。

 そこには、いまも憤りの消えない関係者や熱烈な京アニファンもいるので不測の事態を避けたかったという警察、検察の思いがある。もちろん、そのことは否定しない。ただ、そこまで新聞、テレビが要請を受け入れるなら、そのことを読者視聴者に知らせて理解を得るべきではなかったのか。

 もう1点。今回の逮捕には一部の学者、法律家が異議を唱えている。ストレッチャーに横たわり、食事、排せつも介助が必要な青葉容疑者のどこに逮捕の必須要件である証拠隠滅、逃亡の恐れがあるというのか。医師が常駐、医療設備の整った施設とはいえ、横たわる容疑者を取り調べるのは人権上、問題ではないか。

 さらには早朝、深夜にかかわらず、警察官の立ち会いなしに弁護士と面会できる接見交通権は確実に保証されるのか。

 もちろん私は、これらの異議をすべて支持しようとは思わない。「容疑者の記憶が確かなうちに供述を得たい」とする警察の目的もわかる。

 なにより犠牲者36人という犯罪史上まれに見る凶悪事件で、今後、被告が警備の行き届かない入院先から毎回、公判に出廷し、予想される極刑が言い渡されると同時に、拘置所に収監される。そんな対応に私たちの社会が納得するだろうか。

 それにまだ先のこととはいえ、犠牲者が36人にものぼる事件の裁判員裁判。裁判員にかかる負担はいかばかりか。そうしたことを、いまから裁判所もまじえ協議しておく。

 それこそが私は、密閉空間での密接接触ではない、検察と記者の、あるべきソーシャルディスタンス(社会的距離)ではないかと思うのだ。

(2020年6月2日掲載)

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