日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
「づぼら」が消えゆく社会なんて
-大阪の老舗フグ料理屋閉店-
大阪・ABCテレビのニューススタジオ。新型コロナ対策の31兆円にものぼる第2次補正予算が週内にも成立。東京アラートが解除になってステップ3に前進―そんなニュースを伝えているところに「大阪の老舗フグ料理屋、づぼらや閉店」の一報が飛び込んできた。
オンエア中には確認がとれず夜のニュースで伝えることになったが、私には、なんとも寂しい知らせだった。
愛嬌のある、でっかいフグ提灯。向こうに見える通天閣。大阪らしいそんな光景は、どこかで見たことがあるという方も多いはずだ。本店のある新世界は東京・浅草と並ぶ下町のなかの下町。そして私の社会部記者、警察(サツ)まわりの駆け出しの町でもあった。
づぼらやは1920年(大9)の創業で、今年は100年の節目。安い値段で気ままに、ずぼらにフグを食べてほしいという願いが店名になったとか。サツまわり時代、大きな事件で徹夜になった先輩たちが遅い昼食にやってきて、そのままずぼらに飲み会になったことも数知れない。駆け出し記者にとっては楽しい勉強の場でもあった。
だけど、新型コロナ禍で今年に入って客は激減。4月から休業していたが、客足の伸びは期待できず、本店、道頓堀店とも9月閉店を決めたという。
言われてみれば、大皿に菊模様のてっさに大鍋のてっちり、シメの雑炊。どれをとっても政府提唱の「新しい生活様式」、大皿でなく料理は小分け。おしゃべりは控えて、横並びに座ろう―はフグ料理に合いそうにない。
もちろん、コロナ禍の第2波は絶対に止めなければならない。それに古いもの、なつかしいものをなんでも残せといっているのではない。だけど、ポストコロナの名のもとに、ドローンを使ったスマート農業にキャンプ場のネットインフラ整備。物流のデジタルトランスフォーメーション。コロナがどうあれ、とにかく予算をぶんどったもの勝ち。そのうえに中抜き、ピンハネ、法外な委託料に手数料。
だれかひとりでも「このお金については、いいかげんなことは絶対にやめよう」と言うものはいなかったのか。コロナ後は小ざかしく、目端が利く者の勝ち。ずぼらなんてとんでもない。そんな社会がやってくるとしたら、なんともやりきれない。
(2020年6月16日掲載)
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