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2020年6月11日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

拉致問題「何もしない」のか
-光見えない政権の最重要課題-

 「何もしない。何も手を打たない結果がこれなんですよ」。横田めぐみさんの父、滋さんが87歳で亡くなったことを伝える夜のNHKニュースで、拉致被害者家族会代表、飯塚繁雄さん(81)は、キャスターの何度かの問いかけに一切答えず、こう訴え続けた。怒りと悔しさがにじみ出ていた。

 2002年9月の小泉訪朝で冷酷にも北朝鮮側からめぐみさん死去が伝えられ、その後、蓮池薫さんら5家族が帰国、都内で記者会見が開かれたとき、私はテレビ局のニューススタジオにいた。「めぐみの死なんて信じられません。この方たちと同じように帰国させてください」。そう言うなり、涙で声の詰まった滋さんのマイクをそっと引き取った妻の早紀江さん(84)。いまもあの光景が目に浮かぶ。

 2年ほど後に、大阪弁護士会有志が開いた小さな集会にも足を運ばれたご夫婦と、夜の食事を前に控室でゆっくりお話しさせていただいた。

 「ナニワの味を楽しみにしているようですが、最近のお酒のすすみ方が心配で」という早紀江さんに、いたずらっ子のように首をすくめる滋さん。しばしご夫婦の間に柔らかな時が流れているように感じたのだった。

 だが、第一次も二次も、この拉致問題を「最重要課題」とした安倍政権だったが、いまだ拉致被害者と家族に、ほんの小さな光さえ見えてきた様子はない。もちろん、ならず者国家に安易な妥協をする必要はない。

 ただ2009年、「半島へ、ふたたび」の著書を出された蓮池薫さんと新潟県柏崎の拉致現場でお目にかかったとき、蓮池さんは「あの国は何より面子を重んじる。対話のない圧力だけで押し切れるものではない」と話しておられた。

 だけど安倍政権は「対話と圧力」を、いつの間にか、かなぐり捨てて「最大級の圧力」のみ。そんな日本政府に、いつもは温厚な横田滋さんも「もっと対話をしないと」と、思いをぶつけることもあったという。

 今年2月に拉致被害者、有本恵さんの母、嘉代子さんが94歳で亡くなった。横田滋さんの死で拉致被害者の親御さんは、横田早紀江さんと、有本嘉代子さんの夫、明弘さん(91)の2人だけとなった。安倍政権は政権の最重要課題に「何もしない。何も手を打たないまま」、自らの終焉を迎えようとしているのか。

(2020年6月9日掲載)

 

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