日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
1・7兆円はワクチン開発に
-スポーツもお笑いもお金かけず楽しむ-
6月19日、先週の金曜日夕方、私は東海テレビ(名古屋)の「ニュース0ne」のスタジオに「2カ月半ぶりのご出演です」と言って迎えられた。4月6日、緊急事態宣言の発令で都道府県をまたぐ移動の自粛要請。それによって大阪から東京、名古屋、静岡といった都市でのテレビ、ラジオ出演はリモートか自粛。それがこの日、解禁になって久しぶりの新幹線移動となった。
とはいっても、局の方には申し訳ないような気楽な復帰初日。何しろこの日は3カ月遅れのプロ野球の開幕日だったのだ。加えて東海テレビは神宮球場の中日-ヤクルト戦を完全生中継。
しのつく雨で開始が危ぶまれたが、コロナ関連のニュースのあとは山本昌さんの解説も交えて、スタジオも「いいぞ! がんばれ! ドラゴンズ」一色。大野雄、石川投手と、ともにベテランの投げ合い。初回、中日・ビシエド選手の今季セパ第1号となる2ランが飛び出して大盛り上がり。
時折、巨人ファンの私に気をつかって中継アナと昌さんが「大谷さん、菅野投手が、なんと阪神の西(勇)投手にホームランを浴びてますよ」なんて情報も入れてくれる。決して熱狂的というほどのファンではないが、今年ほどプロ野球の開幕を待ちこがれたことはなかった気がする。
画面に映る無観客のスタンドには、せめてものにぎわいとファンをかたどったパネルが並び、チャンスマーチも流れてくる。だけど、そんな演出も不要と思わせるベテラン、若手の活躍。開幕前日、楽天の則本昴選手の「画面からでも伝わる迫力あるプレーを」という言葉に、エアタッチしたい。
この日、大阪のお笑いの拠点、「なんばグランド花月」も「お客さんが10分の1なら10人分笑ってください」といって、3カ月半ぶりに開いた。その1週間前には、京都フィルハーモニー室内合奏団が演奏者が2㍍近い間隔をとって、3カ月ぶりの定期公演を開いた。
選手が、芸人が、アーティストが、そしてなにより市民がお金をかけずに知恵を絞ってスポーツを、お笑いを、音楽を楽しむ。だから政府が音頭をとった旅行に、お食事のキャンペーン。1・7兆円ものお金は、どうかコロナのワクチン開発に使ってください。カクテル光線に浮かぶ球場の雨に、そんなことを思うのだった。
(2020年6月23日掲載)
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