日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
人と人とはより遠く 心と心はより近く
-震災知る東北でキャンペーンを-
〈今年2月、夫の仕事の関係で愛知県豊田市から、こちら岩手県北上市に5歳の子どもとともに越してきました。まさか新型コロナウイルスでこんなに悲しい思いをするとは―〉
宮城県仙台市に本社を置く東北のブロック紙、河北新報の若い記者から「読者からこんな手紙が届きました。どう考えられますか?」と電話があった。「じつは河北新報あたりから、そういう取材依頼があるといいな、と思っていたんだ」と言うと、電話の向こうのキョトンとした記者の顔が目に浮かぶ。
新型コロナが運んできたさまざまな問題を紙面で取り上げていたところ、32歳の女性から手紙が届いた。転勤で忙しかったこともあって、愛知ナンバーのままの車で近くのスーパーに駐車したところ、中年の男から「きれいな岩手に花見にでも来たべか」と、フロントガラスにツバを吐きかけられたという。
記者は「岩手はただ1つコロナ感染ゼロ県。だからなおさら、県外車に神経質になっているんでしょうけど」という。聞けば岩手ではクラスターが発生した仙台ナンバーが、そして仙台では東京ナンバーが随分、警戒されているという。
「もちろんそういう差別は許されないと訴えていくことも大事だけど」「ハイ。そこで何か、私たちにもできることがあると思っておられたとか?」
じつは私はいまコロナ禍について、こんなことをコメントしていることが多い。
コロナ災禍からの最大の防御は、とにかく人と人が接触しない。ソーシャルディスタンスを取ること。それに対して東日本大震災のような災害から立ち直るには、まず人々が肩を組んで力を合わせる。そこに災禍と災害の大きな違いがある。
そして、そのことを一番知っているのは岩手、宮城、福島の被災3県を含めた東北6県ではないだろうか。
「そこで河北新報をはじめ、岩手日報や福島民報、福島民友、東北の新聞が手を取り合って、〈人と人とは、より遠く 心と心は、より近く〉といったキャンペーンをやってくれたらと思っていたところなんだ」
どうやら若い記者の心を動かしたようで「ぜひ私たちが」と言ったあと「これ、日刊スポーツにも書かれたらどうでしょうか!」
ハイ、さっそく本日、こうして書いております。
(2020年5月12日掲載)
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