日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
今こそ「やらまいか精神」を
-袴田巌さんの姉デコちゃんの強さ-
連日の新型コロナ報道の合間を縫うようにして漫画、「デコちゃんが行く―袴田ひで子物語」と、裁判の支援者で漫画の編者、猪野待子さんからの手紙が届いた。
〈「袴田事件」再審無罪に向け、関心の薄かった方にも訴えたいと、これまでとは違う角度で漫画にしました。ひで子姉から大谷さんにお送りするよう申しつかりました〉
袴田ひで子さん87歳。1966年に静岡で起きた一家4人放火強殺事件、いわゆる袴田事件で死刑が確定した袴田巌さん84歳のお姉さんだ。
ひで子さんとは、これまで東京や静岡の支援者集会でお目にかかり、6年前、無罪に向けた再審開始が決定したときも48年ぶりに社会に出た巌さんをまじえて取材させていただいた。
〈デコちゃん、昔からそう呼ばれていた彼女の気丈な姿は多くの人が知るところですが、驚かされるのは、取材に来られた報道の方々です。みなさん、「いや~元気をもらいました」と、帰っていかれるのです〉
いや~何を隠そう、私もそのひとり。とはいえ、世間の冷たい目、固く閉ざされた再審の扉。デコちゃんは強いばかりではなかった。漫画には酒びたりになった日々も描かれている。だけどいつの間にか、また元気なデコちゃんの姿が。そこには遠州静岡の「やらまいか精神」、なんでもやってやろうじゃないか、があったのではないかという。
そして2014年、ついに開かれた再審の扉。静岡地裁の裁判長は「(袴田さんは)ねつぞうされた疑いのある証拠で死刑の恐怖の下、拘束された」と言い切り、日本の司法史上初めての死刑確定囚釈放については「これ以上、(袴田さんの)拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する」と、これまでの司法を強烈に指弾したのだった。
だがこれほど猛省を促された日本の司法なのに決定からすでに6年、87、84歳の老姉弟を前に、いまも最高裁で再審可否の審理中だ。
〈それでもへこたれず、何くそと前を向くたくましいデコちゃん。発売がコロナ禍の真っただ中となりました。閉塞感に覆われているいまこそ、みなさまにデコちゃんの元気が届きますように…〉
デコちゃん、待子さん、巌さんの無罪確定を待っています。そしていまこそ日本中に、やらまいか精神を。
(2020年5月19日掲載)
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