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2020年5月

2020年5月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

本当、この政権には温かみがないですね
-小麦を値上げするなんて-

 首都圏より一足早く緊急事態宣言が解除になった大阪、兵庫、京都。ホッとする一方で百貨店にできた行列を「大丈夫かな」と不安そうに見つめる人もいる。

 そんな折、大阪で手広く小麦の卸をしている老舗の社長、長いおつき合いのKさんから「小さなことかもしれませんが、ステイホームのなか、子どもと一緒にパンやピザを焼く。新しい生活様式が根付いてきた時に、国がこんなことをしてどうするの」という怒りの電話とともに、データをつけたメールが届いた。

 日本の小麦需要は年間500~600万㌧。8割以上を米、豪、カナダの3カ国から国が輸入。価格も前年調達費に海上運賃、保険経費を乗せ、そこに国のマークアップ(マージン)を加味してほぼオートマチック(機械的)に算出、製粉会社に売却するという。

 〈今年の小麦価格は3月に農水省が発表したのですが、向こう半年、3・1%の値上げでした。大手製粉会社をはじめ業界は新型コロナ禍に考慮して据え置きを強くお願いしたのですが、農水省は今年も既存のルール通りと、4月に値上げを強行してしまいました〉
 
 それにしてもこの時期に、なんということを。

 〈結果、製粉会社は、業務用小麦は6月20日から1袋(22㌔)につき、粉の種類別に55円から75円の値上げを発表。家庭用は7、8月に実施されるはずですが、まだ発表はされていません。いずれにしろ業務用、家庭用ともに国が管理する主食の1つを何も考えず値上げすることは、額の大小ではなく絶対にやるべきではありません〉
 
 そんななかKさんは、自分の会社も6月20日から仕入れは上がるけど、こんな時期、9月まではいまのままでがんばってみると言う。

 いいぞ、Kさん。ところで今回の値上げでお国には、いくら入るのでしょうか。
 
 〈1㌧当たりの値上げ1530円×420万トン(推定年間流通量)の半年分、32億1300万円。例のアベノマスクの予算、466億円の10分の1にもならない額なのです。これだけのお金で、なぜ子どもとの手作りブームに水を差すのでしょうか〉

 本当、この政権には温かみがないですね。

 手作りのアベノミックスピザに、アベノミックスサンド。アベノマスクより、ずっとほんわか、温かみが感じられるはずなのにね。

(2020年5月26日掲載)
 

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2020年5月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

今こそ「やらまいか精神」を
-袴田巌さんの姉デコちゃんの強さ-

 連日の新型コロナ報道の合間を縫うようにして漫画、「デコちゃんが行く―袴田ひで子物語」と、裁判の支援者で漫画の編者、猪野待子さんからの手紙が届いた。

 〈「袴田事件」再審無罪に向け、関心の薄かった方にも訴えたいと、これまでとは違う角度で漫画にしました。ひで子姉から大谷さんにお送りするよう申しつかりました〉

 袴田ひで子さん87歳。1966年に静岡で起きた一家4人放火強殺事件、いわゆる袴田事件で死刑が確定した袴田巌さん84歳のお姉さんだ。

 ひで子さんとは、これまで東京や静岡の支援者集会でお目にかかり、6年前、無罪に向けた再審開始が決定したときも48年ぶりに社会に出た巌さんをまじえて取材させていただいた。

 〈デコちゃん、昔からそう呼ばれていた彼女の気丈な姿は多くの人が知るところですが、驚かされるのは、取材に来られた報道の方々です。みなさん、「いや~元気をもらいました」と、帰っていかれるのです〉

 いや~何を隠そう、私もそのひとり。とはいえ、世間の冷たい目、固く閉ざされた再審の扉。デコちゃんは強いばかりではなかった。漫画には酒びたりになった日々も描かれている。だけどいつの間にか、また元気なデコちゃんの姿が。そこには遠州静岡の「やらまいか精神」、なんでもやってやろうじゃないか、があったのではないかという。

 そして2014年、ついに開かれた再審の扉。静岡地裁の裁判長は「(袴田さんは)ねつぞうされた疑いのある証拠で死刑の恐怖の下、拘束された」と言い切り、日本の司法史上初めての死刑確定囚釈放については「これ以上、(袴田さんの)拘置を続けることは、耐え難いほど正義に反する」と、これまでの司法を強烈に指弾したのだった。

 だがこれほど猛省を促された日本の司法なのに決定からすでに6年、87、84歳の老姉弟を前に、いまも最高裁で再審可否の審理中だ。

 〈それでもへこたれず、何くそと前を向くたくましいデコちゃん。発売がコロナ禍の真っただ中となりました。閉塞感に覆われているいまこそ、みなさまにデコちゃんの元気が届きますように…〉

 デコちゃん、待子さん、巌さんの無罪確定を待っています。そしていまこそ日本中に、やらまいか精神を。

(2020年5月19日掲載)

 

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2020年5月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

人と人とはより遠く 心と心はより近く
-震災知る東北でキャンペーンを-

 〈今年2月、夫の仕事の関係で愛知県豊田市から、こちら岩手県北上市に5歳の子どもとともに越してきました。まさか新型コロナウイルスでこんなに悲しい思いをするとは―〉
 
 宮城県仙台市に本社を置く東北のブロック紙、河北新報の若い記者から「読者からこんな手紙が届きました。どう考えられますか?」と電話があった。「じつは河北新報あたりから、そういう取材依頼があるといいな、と思っていたんだ」と言うと、電話の向こうのキョトンとした記者の顔が目に浮かぶ。

 新型コロナが運んできたさまざまな問題を紙面で取り上げていたところ、32歳の女性から手紙が届いた。転勤で忙しかったこともあって、愛知ナンバーのままの車で近くのスーパーに駐車したところ、中年の男から「きれいな岩手に花見にでも来たべか」と、フロントガラスにツバを吐きかけられたという。

 記者は「岩手はただ1つコロナ感染ゼロ県。だからなおさら、県外車に神経質になっているんでしょうけど」という。聞けば岩手ではクラスターが発生した仙台ナンバーが、そして仙台では東京ナンバーが随分、警戒されているという。

 「もちろんそういう差別は許されないと訴えていくことも大事だけど」「ハイ。そこで何か、私たちにもできることがあると思っておられたとか?」

 じつは私はいまコロナ禍について、こんなことをコメントしていることが多い。

 コロナ災禍からの最大の防御は、とにかく人と人が接触しない。ソーシャルディスタンスを取ること。それに対して東日本大震災のような災害から立ち直るには、まず人々が肩を組んで力を合わせる。そこに災禍と災害の大きな違いがある。

 そして、そのことを一番知っているのは岩手、宮城、福島の被災3県を含めた東北6県ではないだろうか。

 「そこで河北新報をはじめ、岩手日報や福島民報、福島民友、東北の新聞が手を取り合って、〈人と人とは、より遠く 心と心は、より近く〉といったキャンペーンをやってくれたらと思っていたところなんだ」

 どうやら若い記者の心を動かしたようで「ぜひ私たちが」と言ったあと「これ、日刊スポーツにも書かれたらどうでしょうか!」

 ハイ、さっそく本日、こうして書いております。

(2020年5月12日掲載)

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2020年5月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

経済まわすよりまず命を守れ
-あきれるコロナ対策の補正予算-

 新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言は明日6日以降も延長されることになった。ステイホームに休校、商店などの休業が今月末まで続くのかと思うと、正直げんなりしてくる。だけどウイルスとの熾烈な戦い。ここは力を合わせて長丁場を乗り切るしかない。

 ただ、このところ気になることがある。私がこうしたコラムやテレビ、ラジオのコメントで「いまは命を守り抜くこと。経済はみんなが元気になってから立て直したらいい」と主張すると、一部の政治家、評論家から猛烈な反発を食う。

 「経済がまわらないと、国がまわっていかない」「経済の9割が止まったら、政治は持たない」…。

 もちろん、ここで言う経済、つまりお金は国民1人につき10万円の給付金や休業要請に応じた個々のお店への協力金のことではない。国の予算や国家の経済財政のことである。

 減少傾向にあるとはいえ、感染者は1万5000人を上回り、死者は残念ながら増加傾向にあって500人を超えた。そんなとき国がするべきことは、経済ではない。感染者を減らし、1人でも多くの重症者の命を救うことではないのか。

 家庭でいえば、病と闘う家族に「お金のことは心配しないで早く元気になって」と声をかける。それが当たり前ではないか。枕元で預金通帳広げてため息をつく。そんな家がどこにあるか。

 いやいや、私たちの国だって、そこはきちんと、と思われる方もいるだろう。ならば先日成立したコロナ対策の補正予算。安倍首相側近の経産官僚が盛り込んだコロナ終息後の「GO TO キャンペーン」を見てほしい。上限2万、つまり2万円のホテルがタダになる旅行券に、レストランでは1000円のポイント。イベントのチケットは20%オフの大盤振る舞いで、予算総額1兆7000億円。

 ではこの補正予算の感染予防、医療整備費は、というと、喫緊のワクチン、治療薬の開発に275億、人工呼吸器確保に265億、検査体制に49億など総額6700億円。「GO TO」予算の半分どころか4割だ。

 これが政治家、評論家の言う「経済がまわる」ということか。だったら、私はどれほど叩かれようと「命を守り抜け」と叫び続ける。

 敵はウイルスだけではない、長丁場になりそうだ。

(2020年5月5日掲載)

 

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