日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
戦う相手はウイルス 市民同士ではない
-コロナ禍で聞いた嬉しい話 やりきれない話-
30年間、窓辺から東京タワーを眺めていたホテルとは、しばしの別れ。先週から東京、静岡のテレビ、ラジオ番組はすべて大阪からスカイプなどによる中継。スタジオからの放送は大阪・ABCテレビの夕方ニュース、「キャスト」だけとなった。まさに新型コロナウイルスとの臨戦態勢。
先週のこのコラムに「戦うのは国でも政権でもない。名もない市民だ」と書いた。
うれしい話も聞いた。政府が当初、当座の金として出すと言っていた1人当たり10万円が、2カ月遅れのいまごろになって当座の金として支給されることになった。大阪のごく普通のおばちゃんはキャストのインタビューで。
「そら、ありがたいけど、ほんまに困ってはる人がいるんやったら、そっちにまわしてあげたら。私らは、なんとかなるよってに」
やりきれないこともあった。自治体の知事が業種によって休業要請した夜。大阪・北新地の老舗のバーのマスターは「自分の給料はあきらめた。けど従業員の生活もある」と、常連さん相手に店を開くと取材に答えてくれた。ところが夜の全国ネットでもこのニュースを流すと、店には「つぶしてやる」「火をつけるぞ」といった電話がかかり続けた。
もちろん一方的にマスターの肩を持つ気はない。だけど翌日の放送でキャスターが「みなさんにはそれぞれの生活があります。卑劣な行為は絶対にやめてください」と訴え、私も「戦うのはウイルスとであって、決して市民同士ではない」とコメントさせてもらった。
うれしい話に戻って、大阪市の松井一郎市長が、医療現場の防護服が底を尽いて雨がっぱでしのいでいると聞いて「ご家庭、会社で眠っている雨がっばがあったらぜひ譲って」と呼びかけ、番組でも紹介したところ、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)などからの大口寄贈もあって、たった3日で10万枚。市長は「予想を超える数に感謝」としたうえで、「個人からの買い取りは終了。あつかましいようやけど、企業からの寄贈は続けます」。
こんなあつかましさは大いに結構。市民が泣いて笑って戦って―。番組では週末、医療従事者に感謝を込めて東京タワーなどとともに青くライトアップされた明石海峡大橋や、神戸港の大観覧車の姿を映し出した。
(2020年4月21日掲載)
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