日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
我々は同じ過ちを繰り返すのか
-東日本大震災から9年-
東日本大震災は、あす11日で発生から9年となる。今年は新型コロナウイルス感染の影響で、国の追悼式は中止。被災地は福島など被災3県でも学校は休校。卒業式も中止や縮小となっているところが多い。だけどこの春、中学を卒業する生徒は震災の年、小学1年生。入学式どころではなかった。
「この子たちは義務教育の始めも終わりも式はなし。だけんど国さ、そんなことは考えてもいなかろう」
震災の翌年から定点取材している川俣町山木屋地区をはじめ、福島の方からこんな声を聞いた。そして多くの人が、このコロナウイルスに「放射能汚染に追い詰められたあのときを思い出す」と顔を曇らせる。
後手後手にまわっていたのに「原子炉内に封じ込める」「ただちに人体への影響はない」。そんな国のアナウンスを何度聞いたか。
そして今回は放射能と同様、見えないウイルスとの戦い。国は「なんとしてでも水際で止める」としてクルーズ船の乗客を船に留め置いたあと電車やバスで帰宅させ、一方で中国全土からの入国は止めず、武漢とその周辺からの渡航者だけを隔離した。その結果、気がついたときには手に負えない市中感染になっていた。そこになんとしてでも東京五輪までには収束した姿を、という焦りはなかったか。
昨年も足をのばした浪江町と双葉町。全町帰還困難区域となっていた双葉町は3月4日、一部解除がされた。たしかに一筋の光だか、立ち入れるのは、14日に全線開通となる常磐線の双葉駅周辺など町面積の4・6%。将来またこの町に戻ってきたいという住民は全体の10・5%にとどまっている。福島では、いまも1万人余りが避難生活を続けている。
一方で、昨年も歩いてみた双葉町中野地区の復興再生拠点区域。洗濯機、風呂桶、タイヤ、山積みの災害ゴミの向こうで巨大なビルの建設が進む。震災遺産の「原子力災害伝承館」。周辺は復興祈念公園として整備され、今年中のオープンを目指すという。
町面積の95%を奪われ、90%の住民がふるさとへの帰還をあきらめようとしているとき、目に見えない放射能との戦いは、検証もないまま伝承していくものなのか。私たちは、いつも同じ過ちを繰り返しているように思えてならない。
(2020年3月10日掲載)
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