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2020年3月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

ウイルスとの戦い最中 新たな敵作るとは…
-ギャンブル・薬物に溺れた警部補- 

 連日、報道しながら新型コロナウイルスとの戦いはまさに死闘、いまが正念場という思いを深くする。あらためて20世紀の終わり、欧米の社会学者が「21世紀、人類はテロとウイルスとドラッグとの戦いになる」と予測していたのを思い出す。

 そんなとき、広島テレビの「広島中央署8500万円盗難事件取材班」の女性記者が「これが最後のインタビューです」と大阪までやってきた。事件は2017年5月、広島中央署の金庫に入れてあった詐欺事件の証拠金、8572万円が盗まれるという日本の警察史上、前代未聞の大失態。

 捜査は難航を極めたが、県警は先月14日、事件の4カ月後に死亡した警部補(当時36)の犯行と断定し、被疑者死亡で書類送検。なんとも、やりきれない形で事件は決着した。

 タイトなスケジュールのなか日曜の午前中なら、と取材を受けたのは、この警部補が極度のギャンブル依存症、そして薬物依存症で、そうしたなか9回にわたって県警が任意で取り調べ。その音声データを取材班が入手したと聞いたからだ。

 あらためてギャンブルの恐ろしさを感じる。警部補は同僚から数千万円借り、犯行直後とみられる時期に1000万円を返済。また事件発覚数日後には、4800万円を競馬につぎ込み、「金を溶かす」と呼ばれる証拠隠滅をはかっている。

 だが、そうしたことを突きつけられても、警部補は必死に潔白を証明するわけでもなく、かといって激高するわけでもなく、どこか投げやり。「疑るなら、くくりゃ(逮捕したら)ええじゃろ」と開き直りながら、頭の中はギャンブルのことばかり。「土曜も日曜もウインズ(場外馬券売り場)に行きます。マークしておいてくださいよ、俺のこと」。

 そんな中、警部補は薬物に溺れていく。取り調べの音声を聞いても次第にろれつが回らなくなってきていたその年の9月、実家で死亡しているのが見つかった。向精神薬など数十種類の薬物がそばにあったという。

 ギャンブルとドラッグ。ともに依存症という泥沼が待ち構えている。だが、現政権は自民党議員が汚職で逮捕されようと、カジノは何がなんでも誘致するという。ウイルスという敵と死に物狂いで戦っているときに、もう1つ敵を作って、いったいどうする気なんだ。

(2020年3月3日掲載)

 

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