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2020年3月

2020年3月26日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

赤木さんを死に追いやったのは、だれだ
-森友学園改ざん問題-妻が提訴

 私が事件記者として捜査一課を担当していたとき、神経をピリピリさせていたのが、所轄署から上がってくる変死報告書だった。ABCに分けられ、A変死は他殺など事件性あり。B変死は病死や自殺など事件性なし。C変死は、ABいずれか判断のつかないもの。解剖して時間をかけて判断する。

 唐突にこんなことを思い出したのは、近畿財務局元職員の赤木俊夫さん(死亡当時54)の手記と遺書を読んだからだ。これがB変死、自殺で片づけられていいものか。少なくとも自殺に関わる事件性ありとされなければ、法治国家の体をなしていないのではないか。

 国有財産管理官だった赤木さんは、森友学園国有地売却問題で財務省による公文書改ざんが報道された2018年3月、自ら命を絶ち、妻が先週、「自殺は改ざんを強いられたからだ」として国と佐川宣寿理財局長(当時)を相手取って提訴した。

 手記は国有地問題発覚当時から財務省が国会で虚偽答弁を繰り返していることに「心身ともに痛み、苦しんでいます」と書いたうえで、赤裸々な文字が並ぶ。

 〈朝日新聞の(文書書き換え)報道、決裁文書差し替えは事実です。すべて佐川局長の指示です。学園を厚遇したと疑われる箇所は、すべて修正するよう指示があったと聞きました〉

 担当官だった赤木さんも改ざんに手を染めることになる。〈修正作業の指示があり、私は相当抵抗しました〉と書かれ、このとき、赤木さんは妻に「内閣が吹っ飛ぶようなことを命じられた」と打ち明けている。だが、本省の指示に過剰反応、修正は拡大していく。

 そんななか、赤木さんはうつ病を発症。〈抵抗したとはいえ、関わった者として責任をどう取るか。この方法しかありません〉。

 手記とは別の遺書には、〈最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。命 大切な命 終止府(符)〉と書かれていた。

 この赤木さんの死は、だれにも責任はないのか。だったらパワハラはだめでも、パワハラ自殺はだれにも責任はないということになる。

 赤木さんを死に追いやったのは、だれだ。赤木さんにこんな手記と遺書を書かせたのは、だれだ。

 なにより大事なことは、決して赤木さんの妻だけの戦いにしてはならないということではないだろうか。

(2020年3月24日掲載)

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2020年3月19日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

ウイルスバラまき男って誰だ
-人権考慮で氏名公表なし-

 一向に収束の気配が見えない新型コロナウイルス感染。人々が不安や恐怖と必死に闘っているとき、それを逆なでするような信じられないことが起きる。

 陽性と確認された愛知県蒲郡市の56歳の男が「ウイルスをバラまいてやる」と言って、飲食店やフィリピンパブで飲んで、食って、歌って、女性を抱き寄せて。外部からの通報で店が110番したが、警察は防護服を着用しての出動。店に到着したのは男がタクシーで帰ったあとだった。

 市民を恐怖のどん底に突き落とすとんでもない男だが、この男について愛知県の発表はいまもって「男性・50歳代・愛知県のいずれかに在住」というだけ。男性の人権とプライバシーに配慮してのことだという。

 そんな県の配慮に従っていたら市民が危ないと、この蒲郡市や半田市などが反旗をひるがえし、「県が発表したその人はわが市在住です」と公表を決断。それがなかったら蒲郡のこの恐怖の一件は、市民から店への通報もなかったはずだ。

 それでも愛知県が頑として公表を拒むなか、事態はさらに深刻化。愛知県豊田市の30代の女性の感染が確認されたが、市の幹部は「県の方針」として、勤め先や感染経路の公表をすべて拒否。私が出演している東海テレビや朝日、中日の記者の「市民の安全はどうでもいいのか」という強硬な抗議に、やっと口を開いた内容は「県が公表した42例目の男性」というもの。

 その男性こそがウイルスバラまき男で、女性はそのフィリピンパブで接客。たまたま男が座ったソファで化粧直しをして感染したとみられるが、愛知県も豊田市も「42例目」とだけ公表して「その男は、うちの市民」と明らかにした蒲郡市に一切合切、責任を押しつけてしまった。

 国のクラスター対策班が、抵抗があるなか4カ所のライブハウス名すべて公表した大阪府を「感染を防ぐ非常にうまい方法」と絶賛しても、愛知はどこ吹く風。なぜ県は元暴力団員のこの男の人権を、こうまでして守り通そうとするのか。

 ウイルスを感染させられた女性は怖さと悔しさで、泣きじゃくっていたという。

 3月16日現在、新型コロナウイルス感染による死者はクルーズ船を除いて28人。うち愛知県が14人。断トツの全国一である。

(2020年3月17日掲載)

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2020年3月12日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

我々は同じ過ちを繰り返すのか
-東日本大震災から9年-

 東日本大震災は、あす11日で発生から9年となる。今年は新型コロナウイルス感染の影響で、国の追悼式は中止。被災地は福島など被災3県でも学校は休校。卒業式も中止や縮小となっているところが多い。だけどこの春、中学を卒業する生徒は震災の年、小学1年生。入学式どころではなかった。

 「この子たちは義務教育の始めも終わりも式はなし。だけんど国さ、そんなことは考えてもいなかろう」

 震災の翌年から定点取材している川俣町山木屋地区をはじめ、福島の方からこんな声を聞いた。そして多くの人が、このコロナウイルスに「放射能汚染に追い詰められたあのときを思い出す」と顔を曇らせる。

 後手後手にまわっていたのに「原子炉内に封じ込める」「ただちに人体への影響はない」。そんな国のアナウンスを何度聞いたか。

 そして今回は放射能と同様、見えないウイルスとの戦い。国は「なんとしてでも水際で止める」としてクルーズ船の乗客を船に留め置いたあと電車やバスで帰宅させ、一方で中国全土からの入国は止めず、武漢とその周辺からの渡航者だけを隔離した。その結果、気がついたときには手に負えない市中感染になっていた。そこになんとしてでも東京五輪までには収束した姿を、という焦りはなかったか。

 昨年も足をのばした浪江町と双葉町。全町帰還困難区域となっていた双葉町は3月4日、一部解除がされた。たしかに一筋の光だか、立ち入れるのは、14日に全線開通となる常磐線の双葉駅周辺など町面積の4・6%。将来またこの町に戻ってきたいという住民は全体の10・5%にとどまっている。福島では、いまも1万人余りが避難生活を続けている。

 一方で、昨年も歩いてみた双葉町中野地区の復興再生拠点区域。洗濯機、風呂桶、タイヤ、山積みの災害ゴミの向こうで巨大なビルの建設が進む。震災遺産の「原子力災害伝承館」。周辺は復興祈念公園として整備され、今年中のオープンを目指すという。

 町面積の95%を奪われ、90%の住民がふるさとへの帰還をあきらめようとしているとき、目に見えない放射能との戦いは、検証もないまま伝承していくものなのか。私たちは、いつも同じ過ちを繰り返しているように思えてならない。

(2020年3月10日掲載)

 

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2020年3月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

ウイルスとの戦い最中 新たな敵作るとは…
-ギャンブル・薬物に溺れた警部補- 

 連日、報道しながら新型コロナウイルスとの戦いはまさに死闘、いまが正念場という思いを深くする。あらためて20世紀の終わり、欧米の社会学者が「21世紀、人類はテロとウイルスとドラッグとの戦いになる」と予測していたのを思い出す。

 そんなとき、広島テレビの「広島中央署8500万円盗難事件取材班」の女性記者が「これが最後のインタビューです」と大阪までやってきた。事件は2017年5月、広島中央署の金庫に入れてあった詐欺事件の証拠金、8572万円が盗まれるという日本の警察史上、前代未聞の大失態。

 捜査は難航を極めたが、県警は先月14日、事件の4カ月後に死亡した警部補(当時36)の犯行と断定し、被疑者死亡で書類送検。なんとも、やりきれない形で事件は決着した。

 タイトなスケジュールのなか日曜の午前中なら、と取材を受けたのは、この警部補が極度のギャンブル依存症、そして薬物依存症で、そうしたなか9回にわたって県警が任意で取り調べ。その音声データを取材班が入手したと聞いたからだ。

 あらためてギャンブルの恐ろしさを感じる。警部補は同僚から数千万円借り、犯行直後とみられる時期に1000万円を返済。また事件発覚数日後には、4800万円を競馬につぎ込み、「金を溶かす」と呼ばれる証拠隠滅をはかっている。

 だが、そうしたことを突きつけられても、警部補は必死に潔白を証明するわけでもなく、かといって激高するわけでもなく、どこか投げやり。「疑るなら、くくりゃ(逮捕したら)ええじゃろ」と開き直りながら、頭の中はギャンブルのことばかり。「土曜も日曜もウインズ(場外馬券売り場)に行きます。マークしておいてくださいよ、俺のこと」。

 そんな中、警部補は薬物に溺れていく。取り調べの音声を聞いても次第にろれつが回らなくなってきていたその年の9月、実家で死亡しているのが見つかった。向精神薬など数十種類の薬物がそばにあったという。

 ギャンブルとドラッグ。ともに依存症という泥沼が待ち構えている。だが、現政権は自民党議員が汚職で逮捕されようと、カジノは何がなんでも誘致するという。ウイルスという敵と死に物狂いで戦っているときに、もう1つ敵を作って、いったいどうする気なんだ。

(2020年3月3日掲載)

 

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