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2020年2月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

20年間の「その後」胸に残るだけにがっかり
-槇原容疑者覚醒剤所持疑い逮捕-

 ABCテレビ(大阪)の夕方ニュース「キャスト」のスタジオ。次々飛び込んでくる新型肺炎の情報でスタートから騒然としていたフロアに、一層緊張が走った。CMに入るのを待ちかねたように届けられたメモを見て驚くと同時に、心の底からがっかりした。

 シンガーソングライターの槇原敬之容疑者(50)が2年前に自宅で覚醒剤などを所持していたとして13日、警視庁に逮捕された。ご存じの方も多いだろうが、槇原容疑者は20年前の1999年にも、やはり覚醒剤所持の疑いで逮捕され、有罪判決を受けている。

 だけど私たち事件を報道する者の胸に強く残っているのは、槇原容疑者の「その後」だった。再犯率が最も高いといわれる薬物犯罪。芸能人やスポーツ選手が再び大麻などに手を染めてしまったとき、私は「槇原さんを見てごらん。あれほど見事に立ち直った人だっているんだ」と、いったい何度、コメントしたことか。

 そういえば、この日は覚醒剤所持で5度目の逮捕となったタレントの田代まさし被告(63)の初公判が仙台地裁で開かれた日だった。
 だけど、その後の槇原容疑者は違った。平成の時代、日本人にもっとも歌われた曲といわれる「世界に一つだけの花」の楽曲をSMAPに提供するなど活躍は私がここであらためて書くまでもない。それなのに…。

 じつは私が心底がっかりしたと書くのには、もう1つ理由がある。私の胸に深く刻み込まれている出来事があった。ABCのスタジオ、女性アナに「ぜひ」と言われて、そのエピソードを紹介させてもらった。

 前回の事件の裁判。論告公判で懲役刑を求刑した若い検察官は求刑理由の書類を置くと槇原被告の目をじっと見て、こう切り出した。

 ―司法試験のため、真冬の深夜、必死で勉強していたあのころ、ラジオから流れてくる、あなたの歌声に、あなたが作詩作曲した楽曲に、どれほど励まされ、勇気づけられたことか。それは決して私だけではありません。みんながまた、あなたの歌をもう1度聞きたいと願っている。そのことを、どうか忘れないでください―。

 検察官としては、異例の言葉。それなのに…。

 今は、多くの人が槇原容疑者の姿から、心底薬物の怖さを知ってほしい。せめて、そう願うしかない。

(2020年2月18日掲載)

 

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