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2020年2月

2020年2月27日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

いつもの隠蔽と強弁…諸外国は納得せず
-手ごわい新型コロナへの対応策は-

 テレビでコメントしたり、こうして原稿を書いていて、最近しきりに名刑事とうたわれたデカさんから聞いた言葉が浮かんでくる。

 「事件には、だれがやっても挙げられる事件と、だれがやっても挙げられない事件。そしてもうひとつ、やりようによっては挙げられる事件がある。わしらの仕事は、そのやりようによっては挙げられる事件を挙げることだ」。

 新型コロナウイルスによる肺炎はついにクルーズ船から複数の死者を出し、感染は未就学児にまで広がった。たしかに、だれがやってもむずかしい事態だ。

 だけど明らかに対応策は間違いだった。別のやりようがあったのではないか。とりわけ海外メディアの反応は手厳しい。

 ニューヨーク・タイムズが「クルーズ船はこうしてはいけないという見本」と書けば、フランス24は「浮かぶ監獄」。

 こちらの苦労も知らないで、と言い返したい気もあるが、ここは、亡くなった84、87歳といった高齢者は先に下船してもらうことはできなかったのか。陽性陰性を調べるPCR検査をなぜ、もっと早く民間に委託しなかったのか。素直に省みてもいいのではないか。

 そうそう、もうひとつ、名刑事の言葉があった。「ナメるな。甘くみるな。事件はどれも手ごわいぞ」。

 たしかにウイルスの感染力は弱い。だけど船内で陽性となった人を、収容先がないといって陰性の人の部屋に戻したらどうなるか。ウイルスをナメていたと言われてもうつむくしかない。

 じつは、このところ気になってしかたがないことがある。当初、国も自治体も感染者の行動経路、範囲をひた隠しに隠していた。いつもの隠蔽体質だ。そして死亡者の発症時期の微妙な訂正。まさか改ざんではないだろうな。

 なにより目立つのは、まともに答えない、はぐらかしと、いつもの強弁だ。船内隔離が批判されると「あれは隔離ではない。検疫の続行だった」。クルーズ船からの下船も「全員陰性を確認した。隔離の必要はない!」。でも早々、感染者が出た。

 うんざり、げんなりの国政では通用しても、諸外国が納得するはずがない。いつ終わるか、わからない戦い。でもそのことは、いま「やりよう」を変えても決して遅くはない、ということではないのか。

(2020年2月25日掲載)

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2020年2月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

20年間の「その後」胸に残るだけにがっかり
-槇原容疑者覚醒剤所持疑い逮捕-

 ABCテレビ(大阪)の夕方ニュース「キャスト」のスタジオ。次々飛び込んでくる新型肺炎の情報でスタートから騒然としていたフロアに、一層緊張が走った。CMに入るのを待ちかねたように届けられたメモを見て驚くと同時に、心の底からがっかりした。

 シンガーソングライターの槇原敬之容疑者(50)が2年前に自宅で覚醒剤などを所持していたとして13日、警視庁に逮捕された。ご存じの方も多いだろうが、槇原容疑者は20年前の1999年にも、やはり覚醒剤所持の疑いで逮捕され、有罪判決を受けている。

 だけど私たち事件を報道する者の胸に強く残っているのは、槇原容疑者の「その後」だった。再犯率が最も高いといわれる薬物犯罪。芸能人やスポーツ選手が再び大麻などに手を染めてしまったとき、私は「槇原さんを見てごらん。あれほど見事に立ち直った人だっているんだ」と、いったい何度、コメントしたことか。

 そういえば、この日は覚醒剤所持で5度目の逮捕となったタレントの田代まさし被告(63)の初公判が仙台地裁で開かれた日だった。
 だけど、その後の槇原容疑者は違った。平成の時代、日本人にもっとも歌われた曲といわれる「世界に一つだけの花」の楽曲をSMAPに提供するなど活躍は私がここであらためて書くまでもない。それなのに…。

 じつは私が心底がっかりしたと書くのには、もう1つ理由がある。私の胸に深く刻み込まれている出来事があった。ABCのスタジオ、女性アナに「ぜひ」と言われて、そのエピソードを紹介させてもらった。

 前回の事件の裁判。論告公判で懲役刑を求刑した若い検察官は求刑理由の書類を置くと槇原被告の目をじっと見て、こう切り出した。

 ―司法試験のため、真冬の深夜、必死で勉強していたあのころ、ラジオから流れてくる、あなたの歌声に、あなたが作詩作曲した楽曲に、どれほど励まされ、勇気づけられたことか。それは決して私だけではありません。みんながまた、あなたの歌をもう1度聞きたいと願っている。そのことを、どうか忘れないでください―。

 検察官としては、異例の言葉。それなのに…。

 今は、多くの人が槇原容疑者の姿から、心底薬物の怖さを知ってほしい。せめて、そう願うしかない。

(2020年2月18日掲載)

 

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2020年2月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

あれから18年…私たちの国は何をしてきたのか
-有本恵子さんの母 嘉代子さん死去-

 北朝鮮による拉致被害者、有本恵子さん(当時23)の母、嘉代子さんが先週、亡くなった。94歳だった。訃報を伝えるABCテレビ(大阪)の夕方ニュース、「キャスト」では、局を退職したあとも取材を続ける元プロデューサーのIさんが昨年12月23日に撮影した映像が流れた。

 自宅のベッドでじっと天井を見つめたまま。だけど北朝鮮による拉致を訴えても反応しなかった、あのときの国への思いはいまも忘れない。「わかっていたのに動かない。あれが大失敗やった」と唇を噛む。

 その嘉代子さんを「お母さん」と呼んでカメラを回し続けたIさんの紹介で、私も何度か嘉代子さんにお目にかかった。おっとりと話す横田めぐみさんの母、早紀江さんとは対照的に、マイクを持って少し前かがみ、歯切れのいい関西弁で「絶対取り戻す。そやから力を貸して」と訴えてきた嘉代子さん。でも、ここ数年は「一目でええ。会いたいんや」と言うことも多かった。

 毎日の食卓には欠かさず恵子さんのぶんも用意され、1月12日は恵子さんの誕生日。だけど今年は還暦を祝うケーキの前に、年明け、骨折で入院した嘉代子さんの姿はなかった。

 夫の明弘さん91、横田早紀江さん84、夫の滋さん87。早紀江さんは「会えるまで絶対に元気でいると言っていたのに…。拉致被害者の親は明弘さんと私たち夫婦、たった3人になってしまいました」と、肩を落とされていたという。

 2002年の小泉訪朝、蓮池、地村、曾我さんや、その家族の帰国。だが、あれから18年、私たちの国はいったい何をしてきたのか。もちろん、だれがやろうと難しい問題であることはわかりきっている。と同時に、拉致被害者を取り戻せるとすれば政治の力しかないこともわかりきっている。

 「政権の最重要課題、1丁目1番地」と位置づけながら、国民の目から見れば、いつの間にか北方4島返還や憲法改正に移っている。そんなことで理不尽、不条理、暗黒国家の厚い扉を壊せるわけがない。燃え盛る、たぎる思い、火の玉となってぶち当たるしかない。

 神戸の斎場。記者から嘉代子さんの思い出を問われた明弘さんは、唇をふるわせ、声をしぼりだした。
 今は無理や。涙は出るけど、言葉は出えへん─ 

(2020年2月11日掲載)

 

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2020年2月 6日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

何でも隠す体質が国民の命を危険にさらす
-新型肺炎感染者の行動経路を明らかに!!-

 テレビで放送させてもらうニュース番組も情報番組も、大半が新型コロナウイルスによる肺炎。町や駅は、人の波というよりマスクの波。そのマスクも品切れだという。ここまで来ると押し戻すか、押し切られるかの戦争という気がしてくる。

 そんなとき、またぞろ、どうにも我慢のならないことが起きている。国や自治体の市民を小ばかにした、上から目線の情報隠しだ。

 これまで日本国内の感染者は20人。地域は奈良、大阪、京都、三重、愛知、神奈川、東京、千葉など広域にわたっている。そうしたなか一部の県では、感染者の国籍から居住する市町村、行動経路や行動範囲、何から何までひた隠しに隠している。

 その理由としては、厚労省の方針とするものから風評被害、感染者のプライバシー、またある県の知事のように「必要以上の情報を出すとパニックが起きる」といったものまでさまざまある。だが、そのどれもが「詳しいことを教えたら、ろくなことがない」と、市民をまるで聞き分けのない子ども扱いにしているのだ。

 そんななか、さすが「お上何するものぞ」の大阪府。これまで感染が確認された旅行ガイドの女性について、40代、大阪市在住。武漢からのツアーとともに大阪城、ベイエリアに立ち寄り、その後、別のツアーと東京に行き、新幹線、地下鉄を使って帰宅、と明らかにしている。府は今後、感染者が出た場合、もっと詳細に行動経路を公表するという。

 気になって大阪のテレビ番組で公衆衛生の専門家に聞いてみると、まさしくこちらの方が科学的で理にかなっている。聞けばコロナウイルスに限らず、ウイルスが感染力を持っているのは、せいぜい1日から2日。たいていは数時間という。とすると、公表した先月末時点で、大阪城などにガイドが立ち寄ってから1週間。もはやウイルスに感染力はない。他方、そのときその場で、濃厚接触によって感染した人がいたとしたら潜伏期間は2週間。ウイルスにまだまだ感染力はある。ガイドの行動を知って、もしやと検診を受ければ二次、三次感染は防げるのだ。

 科学的知見の少ない私でさえわかるこんなことを、国が知らないわけがない。なんでも隠す、隠し通す。その体質が、ついに国民の命まで危険にさらそうとしている。

(2020年2月4日掲載)

 

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