日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
どうなの海外客への「おもてなし」
-五輪イヤー初春の京都で思う-
お正月三が日はいつも通り、京都。ただ今年は、お世話になっている個人タクシーの運転手さんの浮かない顔から始まった。「このところさっぱりですわ。なにしろ外国のお客さんばっかり。来てくれはるのはうれしいんやけど」。
特にひどかったのは、昨年の紅葉のシーズン。韓国人は激減したとはいえ、どこも欧米系や中国人であふれ返り、SNSにアップされた人気の寺院や名所の中には、お坊さんがストップウオッチ片手にスマホでの撮影を秒単位で時間制限するところまで現れた。
こうした外国からのお客さんは、まずタクシーは使わず市バスに流れる。そのせいでバスはとっくに京都市民の足ではなくなってしまった。大きなキャリーバッグが他の乗客にぶつかるトラブルも後を絶たないという。
そんな古都のありさまに日本人の足は遠のく一方で、エグゼクティブを狙った高級ホテルは当てが外れ、すでに供給過多となっている中クラス以下のホテルは激しい値崩れを起こしている。
人の流れもすっかり変わった。いわゆる碁盤の目の中にある京都ならではの骨董や表具、仏具などの老舗は、1日数十人の客のために店をあけておくよりネット販売に変更。何百年と続いた店舗は、外国人目当ての飲み放題の居酒屋に変わっている。それもこれも政府の4000万外国人観光客誘致計画のなせる業。
「人だけ増えて、落ちるお金は毎年減っていく。それがいまの京都どす」
夜の食事でお店の女将の嘆きを聞いて、ならばこの目で、と予定を変えて訪ねてみた定番の金閣寺に竜安寺、そして天竜寺に嵐山。撮影スポットでいつまでもポーズをきめるカップルに起きるブーイング。人の波というよりは人のうねり。ひと足早い春かすみかと思ったのは、砂利道でそのうねりが巻き上げる土煙だった。
もちろん欧米人も中国人も決して不愉快そうではない。貸衣装の着物で楽しげな女性も多い。ただ、このうちどれだけの人が、このアジアの端の小さな国を「もう1度来てみたい」と思ってくれるだろうか。
私たちの国の「おもてなし」が京都に凝縮されたこの姿でいいとは思わない。もっと心地よく迎えて、もっと気持ち良く帰っていただきたい。そんな思いのオリンピックイヤーの初春だった。
(2020年1月7日掲載)
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