日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
浪速のお笑いは権力への風刺があったのでは…吉本さん
-ミキのツイート100万円-
社会部の出身なので、コメントの依頼というと新聞、テレビ、雑誌とも、たいがい事件や事故、災害についてなのだが、なぜか最近増えているのが吉本の芸人さんと吉本興業。先週も写真週刊誌の「FRIDAY」が人気漫才コンビのミキと吉本興業について聞いてきた。
京都市が市の施策を吉本所属のタレントにツイッターでPRしてもらおうと昨年、吉本興業と契約。1回につき50万円で地元出身の漫才コンビ、ミキが「大好きな京都の町並み!」などと2回にわたってツイート、100万円が支払われた。
ただ、このつぶやきは京都市の広告であり、スポンサーが市であるとする記載がなかったため、いま社会問題になっている口コミを装った広告、「ステルスマーケティング(ステマ)」ではないかと批判が噴出。矛先は1回50万円のミキにも向かった。
さて、私はFRIDAYに何をしゃべったか。まず第一に、ミキへの批判はお門違いもいいところだ。そもそも契約は京都市と吉本とのもので、ミキにステマかもしれないという感覚はなかったはずだ。それに1回50万円も、あくまで京都市と吉本の契約であって、ミキが言い出したわけがない。これで批判されたら、芸人はたまったもんじゃない。
おかしいのは京都市であり、何より吉本だ。市は「マナー違反の観光客から罰金」とまで言いながら、こんなツイートで一体、どんな客を呼びたかったのか。
そして吉本。ステマであるかどうかはともかく、こんな見え見えのおべんちゃらツイートの安請け合い。これがお笑いの町、大阪の笑いの殿堂のやることか。それだけではない。最近では経産省主管で日本の食文化やアニメを紹介するクールジャパンキャンペーンに、各地の観光大使。もちろん公的な仕事が全部悪いといっているわけではない。ただ「お奉行の名さえ覚えずとしのくれ」。浪速の笑いにはお上なんてクソ食らえ。常に権力に対する風刺と諧謔があったのではないか。
と、まあ、ぼやいてみたところで漫才にもならない。ただこの春、参院選を前に安倍首相が「飛び入り」と称しつつ、ときの権力者として初めて吉本新喜劇の舞台に立った。あの場面で浪速の笑いも、吉本も終わったな。苦笑いしながら、つぶやくしかないのである。
(2019年11月12日掲載)
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