日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
「散りぬべき時知りてこそ世の中の…」
-「桜を見る会」騒動-
相変わらず、週の初めは東京のホテル暮らし。ただここ数日、ちょっとした異変が起きている。いつもは笑顔を絶やさないスタッフの女性がどこかよそよそしい。聞いてみると、原因はあの首相主催の「桜を見る会」。こんなところにも暗い影が、とびっくりした。
会に先立って山口県の安倍晋三後援会の会員たち850人が超安値の会費で開いていた前夜祭。その会場となったやはり都心のホテルに取材が殺到していることは聞いていた。ところが私の定宿のこのホテルも、3年前までは前夜祭の会場。このため問題発覚以来、総支配人たちは「記者らしい人が接触してきたら、即刻、広報に連絡のこと」とピリピリしているという。
「お互い、因果な仕事だね」と笑い合ったが、ここに来て、花に似合わぬ無粋な騒ぎなんて言っていられなくなった。最初は「招待客に関与してない」と大見えを切った首相が、じつは1000人枠で地元の人たちを招待。さらに昭恵夫人にもお友だち枠。自民党関係者の招待は6000人に上ることが明らかになった。
どう言い逃れしようと、公金を使った公選法違反の供応の罪。お線香やウチワ配りで失脚した議員がいるのに高級ホテルの超安値パーティーに升酒、お料理つきの花見招待。これが選挙違反に問われないなんて到底、許されることではない。
ただし首相の胸のなかには税金を使ったことはともかく、みんなに喜んでもらってどこが悪いという思いがあるに違いない。だけど今回、この花見問題が一向に収束しない原因は、とんでもないこの勘違いにある。
首相を援護するように下関市長が「おじいちゃん、おばあちゃんが、ネクタイ締めて着物を着て、地方の人に喜んでもらってどこが悪い」と発言。これを東京の新聞、テレビが報じたところ地元から首相擁護の電話やメールが来るかと思いきや、さすが長州・山口。「花見のせいで全国の人に山口県人がおねだり、おもらい好きと思われたら、先祖に顔向けできない」という声が随分届いたという。
折しもこの騒ぎの最中、憲政史上最長宰相を記録した安倍首相。だけどこのところなぜか細川ガラシャの辞世の句、「散りぬべき時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ」ばかりが浮かんでくるのです。
(2019年11月26日掲載)
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