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2019年11月

2019年11月28日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「散りぬべき時知りてこそ世の中の…」
-「桜を見る会」騒動-

 相変わらず、週の初めは東京のホテル暮らし。ただここ数日、ちょっとした異変が起きている。いつもは笑顔を絶やさないスタッフの女性がどこかよそよそしい。聞いてみると、原因はあの首相主催の「桜を見る会」。こんなところにも暗い影が、とびっくりした。

 会に先立って山口県の安倍晋三後援会の会員たち850人が超安値の会費で開いていた前夜祭。その会場となったやはり都心のホテルに取材が殺到していることは聞いていた。ところが私の定宿のこのホテルも、3年前までは前夜祭の会場。このため問題発覚以来、総支配人たちは「記者らしい人が接触してきたら、即刻、広報に連絡のこと」とピリピリしているという。

 「お互い、因果な仕事だね」と笑い合ったが、ここに来て、花に似合わぬ無粋な騒ぎなんて言っていられなくなった。最初は「招待客に関与してない」と大見えを切った首相が、じつは1000人枠で地元の人たちを招待。さらに昭恵夫人にもお友だち枠。自民党関係者の招待は6000人に上ることが明らかになった。

 どう言い逃れしようと、公金を使った公選法違反の供応の罪。お線香やウチワ配りで失脚した議員がいるのに高級ホテルの超安値パーティーに升酒、お料理つきの花見招待。これが選挙違反に問われないなんて到底、許されることではない。

 ただし首相の胸のなかには税金を使ったことはともかく、みんなに喜んでもらってどこが悪いという思いがあるに違いない。だけど今回、この花見問題が一向に収束しない原因は、とんでもないこの勘違いにある。

 首相を援護するように下関市長が「おじいちゃん、おばあちゃんが、ネクタイ締めて着物を着て、地方の人に喜んでもらってどこが悪い」と発言。これを東京の新聞、テレビが報じたところ地元から首相擁護の電話やメールが来るかと思いきや、さすが長州・山口。「花見のせいで全国の人に山口県人がおねだり、おもらい好きと思われたら、先祖に顔向けできない」という声が随分届いたという。

 折しもこの騒ぎの最中、憲政史上最長宰相を記録した安倍首相。だけどこのところなぜか細川ガラシャの辞世の句、「散りぬべき時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ」ばかりが浮かんでくるのです。

(2019年11月26日掲載)
  

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2019年11月21日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

「首里城復元は沖縄の人々の心の復元でもあった…」
-東海テレビの取材DVD-

 あらためてどれほどつらくなるか、そんなことを考えてなかなか見る気になれなかったDVDを、火災から10日余りたって、やっとディスクにかけることができた。

 10月31日未明、正殿、南殿をはじめ主な建物が全焼した世界遺産の首里城。それまでの沖縄の取材というと、大半がかつての大戦で地上戦となった沖縄戦だったり、あるいは米軍基地。私は2年前、1度そこから離れて、ほぼ復元が実現した首里城を取り上げてみたいと思った。

 その東海テレビの取材は、いま思えばまことに得難いものだった。復元に力を注がれた高良倉吉琉球大学名誉教授の解説をいただきながら正殿正面、琉球王朝の玉座、御差床(うさすか)の美しさに息をのみ、漆塗りの柱の精巧な彫刻に目を奪われた。そのときのDVDの映像に高良さんの声がかぶる。

 「失われた命は帰って来ない。でも文化遺産は努力で取り戻せる。首里城の復元は、そんな思いの沖縄の人々の心の復元でもあったのです」「あの戦争も、その後の苦難も、沖縄の人々は生来のこうした柔らかい心で乗り越えてきたのです」

 全国の人々が胸張り裂ける思いで見た首里城の崩落。その後、復元を願う寄付は予想外の速さで集まっているという。だが大きな障害も立ちはだかっている。資材と人材だ。復元の際、正殿だけでも直径1㍍級の台湾ヒノキ100本が必要だったが、いまは入手困難になっている。そして22万枚もの沖縄赤瓦、それに沖縄漆。いずれも調達が難しい。それより何より、瓦も漆も扱える職人が激減している。

 そんな折、三重テレビの仕事で2年前の台風被害で休館していた伊勢神宮式年遷宮の資料を展示した「せんぐう館」が再オープンしたというニュースにふれた。1000年もの間、20年ごとに神宮をすべて建て替えてきた遷宮。だが、そのために100年先を見据えたヒノキの宮域林があり、20年に1度のこととなれば、職人の技は確実に継承される。まさに先人の知恵ではないか。もちろん火災はあってはならない。だが台風もあれば、地震もある。こうした知恵に学ぶことはないのか 。

 月末、再び首里を訪ね、焼け残った城の大龍柱の制作者、西村貞雄琉球大名誉教授にお目にかかる。ぜひ先生のご意見も聞いてみようと思っている。

(2019年11月19日掲載)

 

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2019年11月14日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

浪速のお笑いは権力への風刺があったのでは…吉本さん
-ミキのツイート100万円-

 社会部の出身なので、コメントの依頼というと新聞、テレビ、雑誌とも、たいがい事件や事故、災害についてなのだが、なぜか最近増えているのが吉本の芸人さんと吉本興業。先週も写真週刊誌の「FRIDAY」が人気漫才コンビのミキと吉本興業について聞いてきた。

 京都市が市の施策を吉本所属のタレントにツイッターでPRしてもらおうと昨年、吉本興業と契約。1回につき50万円で地元出身の漫才コンビ、ミキが「大好きな京都の町並み!」などと2回にわたってツイート、100万円が支払われた。

 ただ、このつぶやきは京都市の広告であり、スポンサーが市であるとする記載がなかったため、いま社会問題になっている口コミを装った広告、「ステルスマーケティング(ステマ)」ではないかと批判が噴出。矛先は1回50万円のミキにも向かった。

 さて、私はFRIDAYに何をしゃべったか。まず第一に、ミキへの批判はお門違いもいいところだ。そもそも契約は京都市と吉本とのもので、ミキにステマかもしれないという感覚はなかったはずだ。それに1回50万円も、あくまで京都市と吉本の契約であって、ミキが言い出したわけがない。これで批判されたら、芸人はたまったもんじゃない。

 おかしいのは京都市であり、何より吉本だ。市は「マナー違反の観光客から罰金」とまで言いながら、こんなツイートで一体、どんな客を呼びたかったのか。

 そして吉本。ステマであるかどうかはともかく、こんな見え見えのおべんちゃらツイートの安請け合い。これがお笑いの町、大阪の笑いの殿堂のやることか。それだけではない。最近では経産省主管で日本の食文化やアニメを紹介するクールジャパンキャンペーンに、各地の観光大使。もちろん公的な仕事が全部悪いといっているわけではない。ただ「お奉行の名さえ覚えずとしのくれ」。浪速の笑いにはお上なんてクソ食らえ。常に権力に対する風刺と諧謔があったのではないか。

 と、まあ、ぼやいてみたところで漫才にもならない。ただこの春、参院選を前に安倍首相が「飛び入り」と称しつつ、ときの権力者として初めて吉本新喜劇の舞台に立った。あの場面で浪速の笑いも、吉本も終わったな。苦笑いしながら、つぶやくしかないのである。

(2019年11月12日掲載)

 

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2019年11月 7日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

いまさら記者の何を教育するのか
-記者の捏造にコメント…?-

 先週のこのコラムに菅原一秀経産相の辞任で週刊文春にやられっぱなしの新聞に「情けなくため息が出てくる新聞人」と書いたら、また文春のスクープで、今度は河井克行法相が吹っ飛んだ。そんな今年の新聞週間に、逃げ出したくなるようなコメントの依頼が朝日新聞富山総局からあった。

 コメントを求められた一件は、10月29日の朝日によると〈読売記者が談話捏造 富山版には「おわび」 懲戒処分へ〉とある。

 電話をしてきた朝日の若い記者は私が読売出身と知ったうえで、「他社の失態をあげつらう気はありません。同じ若い記者仲間として、なぜこんなことが起きてしまうのか、私たちも考えてみたいのです」と静かに語りかけてくる。
 
 聞けば読売の24歳の記者は富山版に掲載した「自治体 SNS発信工夫」の記事で、閲覧者を増やそうと苦悩する県や市の担当者の話として「派手な動画や写真に負けてなかなか見てもらえない」「SNS活用のノウハウがない」といった談話を取材なしで捏造したという。読売は富山版に「おわび」を掲載、「記者教育を徹底する」としている。

 電話をしてきた朝日の記者とはコメントを出すというより、いつの間にか、あれこれと語り合っていた。そもそも「記者教育を徹底」といったところで、いまさら何を教育するのか。捏造がいけないことを知らない記者がいるのか。

 行き着くところ私は「新聞の姿勢、新聞記者としての誇りではないのかなあ」と、なんだか自分自身に語りかけ、言い聞かせるような思いを話していた。

 あらためて文春を持ち出すまでもなく、政権中枢に狙いを定め、今週も来週も最高権力者側近の首を吹っ飛ばしていく。記者はそんな自らのメディアを限りなく誇らしく思うと同時に、政権は常に自分たちのメディアを狙っている。そこにある緊張感は大変なものだ。小さなコラムであっても談話の捏造なんてあり得ない。

 紙面、誌面から立ちのぼってくる誇りと緊張感。それこそが最大の記者教育ではないのか。ときの最高権力者から「この新聞を読んでくれ」と持ち上げられ、おだてられるような新聞から、果たして記者に誇りや緊張感が生まれるだろうか。

 さまざまなことを感じた2019年新聞週間だった。

(2019年11月5日掲載)

 

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