日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
問われる日本の表と裏の顔
-神戸で暴力団抗争勃発か-
神戸と聞くと、阪神・淡路大震災の際、「後ろは六甲、前は穏やかな海、間を流れる幾筋もの川。この町にきっと帰ってきます」という市民の声がいまも心に残っている。
あれから25年。大阪・ABCテレビの夕方ニュースの直前、その神戸が騒然としていた。中心部、元町に近い神戸山口組の中核組織、山健組事務所近くの路上で組員とみられる2人が拳銃で撃たれ、間もなく死亡した。警察は発砲した対立組織、山口組系弘道会傘下の68歳の組員をその場で逮捕した。
発砲した男を組事務所近くで警戒中の警察官が職務質問。騒ぎを聞いて出てきた組員2人を撃ったという。周辺は騒然となり、「警官がいる前で、どないなっとんじゃ」と食ってかかる別の組員もいたというが、亡くなった方には気の毒だが、「どうなってんだ」と聞きたくなるのはこっちだ。
六代目山口組が実質的に3団体に分裂して4年。緊張状態が続き、8月には、やはり神戸で山口組系弘道会組員が撃たれ、対立する神戸山口組系山健組への報復は必至とみられていた。加えて10月18日には、山口組ナンバー2の幹部が刑務所を満期出所する。山口組がそれまでに行動を起こすことは想像できたのだ。しかも、この日は山健組の傘下幹部が集まる定例会の最終日。報復するには、この日しかなかったともいえる。
これだけの条件がそろっていたのに、警察官の目の前でなんでむざむざ2人が射殺されたのか。嫌な言葉だが、暴力団の抗争は「血のバランスシート」。双方が同じくらい血を流さないことには決着しない。2人が射殺されたとなると、この先の凄惨な抗争勃発は想像に難くない。
今回事件が起きたのは、午後2時40分。近くの小中学校の下校時間前で、まさに白昼の銃撃だった。警察庁は、東京・府中刑務所を今週末の18日に出所するナンバー2は、この日のうちに緊張の続く神戸の山口組総本部に向かうとみて関係先に厳戒態勢を指示している。その4日後には、世界160カ国以上の来賓をお招きして即位礼正殿の儀。そんなときに銃撃戦は決して許されることではない。
治安の正念場。ステキな神戸の町の表と裏の顔。いや、日本という国の、表と裏の顔が問われようとしている。
(2019年10月15日掲載)
| 固定リンク
「日刊スポーツ「フラッシュアップ」」カテゴリの記事
- 風化に抗い続ける未解決事件被害者家族(2024.11.27)
- 社会性 先見性のカケラもない判決(2024.11.13)
- 「なりふり構わぬ捏造」どれだけあるんだ(2024.10.30)
- 追い続けた寅さんに重なって見える(2024.10.16)
- どうか現実の世界に戻ってほしい(2024.10.02)