日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
脅迫電話をかけまくったもん勝ちに
-「表現の不自由展」は再開なるのか-
「表現の不自由展・その後」の企画展が再開に向けて動きだした直後に、文化庁が補助金全額不交付を決定。事態が激しく動いている中、「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督津田大介さんに東海テレビの「ニュース0ne」に生出演していただき、そのあとじっくりお話しさせてもらった。
慰安婦を象徴した少女像などの展示に逮捕者まで出るすさまじい電話、メール攻撃で、開幕3日で中止に追い込まれた「不自由展」。津田さんは疲弊し、消耗しているのではないかと思ったのだが、この事態にも揺らぐことなく、ドンと立って、柔らかく語りかけてくる姿はいつも通り。その分、内に秘めた怒りがふつふつと伝わってくるようだった。
前回、企画展をこのコラムで取り上げたときと同様、作品の評価はここでは置く。だが、7800万円の補助金の突然の不交付。「作品ではない。予想される混乱を申告しなかった手続きの問題」とする文科省の言い分を真に受ける人が果たしているのか。
私も津田さんが主張する「自粛、萎縮効果を狙った事後検閲そのもの」と感じるのだ。突き詰めていけば、会場スタッフなどに「子どもの顔も知ってるぞ」といった脅迫電話をかけまくった人のやったもん勝ち。この手を使えば今後、どんな展覧会も書籍の出版も中止に追い込めるではないか。
企画展を批判する声の中に「補助金をはじめ公費、国民の税金を使う以上は」という声を聞く。果たしてそうか。だったら原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」を子どもに見せたくないという人がいるからと撤去した公立図書館も、護憲集会には会場を貸せないとした公会堂も正しかったということになるではないか。
グラスを重ねるうち、生番組が終わった直後に進行役の高井一アナが「残念っ」と声あげたことを思い出した。この企画展の一連の流れ。「じつは津田さんが描こうとした壮大な不自由展ではなかったのですか」とダメ押ししたかったという。
「うーん、聞かなくてよかったんじゃないですか」と言いながら、私の胸には別の思いがあった。芸術展は残すところ2週間。再開に向けて大きく動きだすことができるのか。この空白のキャンバスに私たちが何を描こうとしているのか。それが問われていると思ったのだ。
(2019年10月1日掲載)
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