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2019年10月

2019年10月31日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

情けなく ため息出てくる新聞人たち
-文春にやられっぱなし「経産相報道」-

 「新聞を開いて僕は世界を知った」─これが10月15日から始まった新聞週間の今年の代表標語だ。だけど今回ほど新聞記者出身の身として、この言葉を空々しく感じたことはない。

 9月の安倍内閣改造で就任したばかりの菅原一秀経産大臣(57)が先週末、やっとのことで辞任した。だれが見たってその前日発売の週刊文春がトドメを刺したことは明らかだ。

 何しろカネでもモノでも配ること配ること。メロン24、カニ38、スジコ66…。傑作は「ローヤルゼリー、安倍(大)塩崎(恭久、元厚労相)(小)と記載されたリストは大臣の指示か」という野党の国会質問。菅原氏から「小でいいや」と言われた塩崎さん、当時知ってりゃ突っ返しただろうになあ。

 決定打は10月17日、菅原氏の秘書が選挙区内の元町内会長の通夜に香典を届けた場面を文春にきっちり写真を撮られ、公選法違反の動かぬ証拠。それにしても文春が10月10日発売号で疑惑を報じたそのさなかの香典。一体、菅原氏とはどんな感覚の持ち主なのか。

 それより何より、情けなくてため息が出てくるのが、この間の新聞ではないか。10日に文春に一報が出て、一部の新聞は「経産相に疑惑」と報じながら、先週号のトドメの文春記事まで一体、何をしていたのか。この間、10月15日には先の標語が発表された新聞大会が宮崎市で開催されていた。

 この大会は、イギリスなどと同様に新聞が「言論の自由を保障した社会に欠かせない公共財」として軽減税率の対象となった、いわば記念すべき大会だった。だけど、そこに集った新聞人たちは、この間の自らの報道を思い起こして恥ずかしくなかったのか。「開いて世界を知った」と書いた標語の中学2年生の男の子に顔向けできるのか。

 ここで記者OBとして愚痴っていても始まるまい。ならば、はっきりさせてほしい。一、いまの記者には香典の場面をつかむこともできないほど取材力がないのか。二、政治家の金銭疑惑、スキャンダルは文春新潮など週刊誌にまかせて、新聞は手を出さないのか。三、軽減税率にしてもらったうえ、すぐに圧力をかける安倍政権に逆らえるはずもないのか─。

 ぜひ各紙、検証記事で明らかにしてほしい。それでこそ、公共財ではないのか。

(2019年10月29日掲載)

 

 

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2019年10月24日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

暴力教師なぜ告訴、告発しない
-第三者委設置で司法踏み込みづらく-

 もう20年以上前の事件だが、神戸市須磨区で起きた連続児童殺傷事件。犯行に及んだ少年Aがいた中学の卒業生は、何年たっても「中学はどこ?」と聞かれるたびにドキッとしたという。同じ須磨区の東須磨小の子どもたちもこの先、何十年と同じ思いをするのかと思うと胸が痛む。

 40代の女ボス教師を中心にした暴力教師集団。20代の男女教師に、激辛カレーを食べさせる、車をボコボコにする、あざができるほど尻をたたく、性的行為を強要する。それがどういうことか、高学年の児童ならもうわかるはずだ。だけどいま、私の爆発しそうな怒りの矛先は事件に関わっている学校や市教委に向いている。

 先週行われた保護者説明会で学校側は「(加害教師たちは)自宅で療養させている」「暴行の現場になった家庭科室を改装する」「当面給食にカレーは出さない」…。一体、どんな神経を持っていたら、こんなことが言えるのか。

 理解に苦しむのは神戸市と市教委も同じだ。市はハラスメントなどに詳しい弁護士3人からなる第三者委員会を設置、年内に調査結果を出すとしている。委員の弁護士のこの先のご苦労はいかばかりかと思う半面、疑問も残る。記者会見した委員は「教師たちからヒアリングを進め、背景や風土も確認したい」としているが、果たして、すさまじい暴力や性的強要、これらはヒアリングして風土を確認するものなのか。

 そもそも神戸市と市教委はなぜ、暴力教師を神戸地検か兵庫県警に刑事告訴、告発しないのか。20代男性教師がすでに被害届を出しているとするなら、それは違う。「家のお金がなくなりました」が被害届。「家のお金を○○が盗んだ。罰して下さい」というのが告訴、告発。これほど違うのだ。

 暴力教師集団は傷害、暴行、脅迫、強要、強制わいせつ教唆、器物損壊、子どもたちの前で教壇に立つ先生がこれだけの犯罪にかかわっていたのだ。だけど、第三者委員会ができてしまうと司法は踏み込みづらい。それでいいのか。

 いま、私たちにできることは、この学校の子どもたちが将来、「東須磨小の卒業です。あの事件の教師はみんな裁きを受け、罪を償いました」と、きちんと言えるようにしておくこと。それしかないのではないか。

(2019年10月22日掲載)

 

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2019年10月17日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

問われる日本の表と裏の顔
-神戸で暴力団抗争勃発か-

 神戸と聞くと、阪神・淡路大震災の際、「後ろは六甲、前は穏やかな海、間を流れる幾筋もの川。この町にきっと帰ってきます」という市民の声がいまも心に残っている。

 あれから25年。大阪・ABCテレビの夕方ニュースの直前、その神戸が騒然としていた。中心部、元町に近い神戸山口組の中核組織、山健組事務所近くの路上で組員とみられる2人が拳銃で撃たれ、間もなく死亡した。警察は発砲した対立組織、山口組系弘道会傘下の68歳の組員をその場で逮捕した。

 発砲した男を組事務所近くで警戒中の警察官が職務質問。騒ぎを聞いて出てきた組員2人を撃ったという。周辺は騒然となり、「警官がいる前で、どないなっとんじゃ」と食ってかかる別の組員もいたというが、亡くなった方には気の毒だが、「どうなってんだ」と聞きたくなるのはこっちだ。

 六代目山口組が実質的に3団体に分裂して4年。緊張状態が続き、8月には、やはり神戸で山口組系弘道会組員が撃たれ、対立する神戸山口組系山健組への報復は必至とみられていた。加えて10月18日には、山口組ナンバー2の幹部が刑務所を満期出所する。山口組がそれまでに行動を起こすことは想像できたのだ。しかも、この日は山健組の傘下幹部が集まる定例会の最終日。報復するには、この日しかなかったともいえる。

 これだけの条件がそろっていたのに、警察官の目の前でなんでむざむざ2人が射殺されたのか。嫌な言葉だが、暴力団の抗争は「血のバランスシート」。双方が同じくらい血を流さないことには決着しない。2人が射殺されたとなると、この先の凄惨な抗争勃発は想像に難くない。

 今回事件が起きたのは、午後2時40分。近くの小中学校の下校時間前で、まさに白昼の銃撃だった。警察庁は、東京・府中刑務所を今週末の18日に出所するナンバー2は、この日のうちに緊張の続く神戸の山口組総本部に向かうとみて関係先に厳戒態勢を指示している。その4日後には、世界160カ国以上の来賓をお招きして即位礼正殿の儀。そんなときに銃撃戦は決して許されることではない。

 治安の正念場。ステキな神戸の町の表と裏の顔。いや、日本という国の、表と裏の顔が問われようとしている。

(2019年10月15日掲載)

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2019年10月10日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公共放送NHKが根本から腐っていた
-罪深い現場関与-

 京都アニメーションへの放火殺人事件で被害に遭われた方の実名匿名報道が問題になっていたとき、私は「問われているのはメディアへの信頼性だ」と書いたり、コメントしてきた。そのメディアの一翼を担うNHKが根本から腐っていた。

 日本郵政グループのかんぽ生命が主にお年寄り相手に保険料を二重払いさせたり、契約の際、家族を同席させるなと強要。特殊詐欺まがいの営業を展開していた問題は、じつは明るみに出る1年以上前の昨年4月、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」が「郵便局が保険を“押し売り”!?~郵便局員たちの告白~」として放送していた。

 番組は視聴者から広く情報提供を求める“オープン・ジャーナリズム”によって制作。続編も放送すると予告していた。ところがこの流れを知った日本郵政グループがNHKの経営委員会に激しく抗議。これを受けて経営委員会は上田良一NHK会長を「厳重注意」とし、もちろん続編が放送されることはなかった。

 わかりやすく言うと、経営全般を仕切る取締役が番組制作の責任者を叱り飛ばした形。これで現場が萎縮しないわけがない。NHKをめぐっては、これまでも与党などから圧力があったことは報じられている。だが今回は警察、検察も関心を寄せているかんぽ生命の組織ぐるみの不正事件。番組にストップがかかってから1年余り。この間に、どれほど新たな被害者が出たことか。

 言うまでもなく、NHKは法律で国民から強制的に受信料を徴収することが認められた公共放送。その公共放送が、きょうもあしたも、お年寄りたちに被害が出ていることを知りながら警告を発する番組の放送をストップしていた。

 片棒をかついだとまでは言わないが、これほど罪深い現場関与があっただろうか。

 許せないのは、総務省からの天下りで郵政グループNO.2の副社長から「NHKはまるでやくざだ」とののしられながら、トップの会長も番組の続編を止めた経営委員会の委員も、いまだに視聴者に対して直接、なんの説明もしていないことだ。

 取るべき道はただ1つ。12人の経営委員全員と会長にカメラとマイクを向けて、「クローズアップ現代+」でノーカットで放送しろ。そのときまで私たちに受信料不払いの権利はあると思うのだ。

(2019年10月8日掲載)

 

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2019年10月 3日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

脅迫電話をかけまくったもん勝ちに
-「表現の不自由展」は再開なるのか-

 「表現の不自由展・その後」の企画展が再開に向けて動きだした直後に、文化庁が補助金全額不交付を決定。事態が激しく動いている中、「あいちトリエンナーレ2019」の芸術監督津田大介さんに東海テレビの「ニュース0ne」に生出演していただき、そのあとじっくりお話しさせてもらった。

 慰安婦を象徴した少女像などの展示に逮捕者まで出るすさまじい電話、メール攻撃で、開幕3日で中止に追い込まれた「不自由展」。津田さんは疲弊し、消耗しているのではないかと思ったのだが、この事態にも揺らぐことなく、ドンと立って、柔らかく語りかけてくる姿はいつも通り。その分、内に秘めた怒りがふつふつと伝わってくるようだった。

 前回、企画展をこのコラムで取り上げたときと同様、作品の評価はここでは置く。だが、7800万円の補助金の突然の不交付。「作品ではない。予想される混乱を申告しなかった手続きの問題」とする文科省の言い分を真に受ける人が果たしているのか。

 私も津田さんが主張する「自粛、萎縮効果を狙った事後検閲そのもの」と感じるのだ。突き詰めていけば、会場スタッフなどに「子どもの顔も知ってるぞ」といった脅迫電話をかけまくった人のやったもん勝ち。この手を使えば今後、どんな展覧会も書籍の出版も中止に追い込めるではないか。

 企画展を批判する声の中に「補助金をはじめ公費、国民の税金を使う以上は」という声を聞く。果たしてそうか。だったら原爆の悲惨さを伝える「はだしのゲン」を子どもに見せたくないという人がいるからと撤去した公立図書館も、護憲集会には会場を貸せないとした公会堂も正しかったということになるではないか。

 グラスを重ねるうち、生番組が終わった直後に進行役の高井一アナが「残念っ」と声あげたことを思い出した。この企画展の一連の流れ。「じつは津田さんが描こうとした壮大な不自由展ではなかったのですか」とダメ押ししたかったという。

 「うーん、聞かなくてよかったんじゃないですか」と言いながら、私の胸には別の思いがあった。芸術展は残すところ2週間。再開に向けて大きく動きだすことができるのか。この空白のキャンバスに私たちが何を描こうとしているのか。それが問われていると思ったのだ。

(2019年10月1日掲載)

 

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