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2019年9月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

かけがえのなさに改めて触れる
-京アニ犠牲者実名公表-

 毎日新聞の朝刊、「永遠のエンドロール」の見出しを見て、また胸がつまった。京都アニメーション事件で犠牲になった35人のうち、25人の実名が公表され、すでに公表されている10人と合わせて全員のお名前や年齢が明らかになった。

 犠牲者の実名公表については、このコラムでもふれたように、ご遺族、警察、私たちマスメディアの間で、さまざまな軋轢(あつれき)が生じ、事件発生から40日、難航の末の結果だった。

 なぜ実名なのか。人さまのペンを借りるようだが、8月29日の、これまた毎日新聞のコラム、〈余録〉が言い尽くしくれているように思う。〈沖縄戦で亡くなった人々の名前を、国籍や軍人・民間人の区別なく刻んだ碑〉と、祈念公園の「平和の礎(いしじ)」を紹介。

 〈その石碑群が示す24万人という数の途方のなさにもまして、心を揺さぶるのは刻まれた名前の一つ一つだった〉と書き、〈並んだ名の一つにそっと手をかざすと、誰とも知れぬその人の生のかけがえのなさに触れた気がして涙が出てきた。この世に二つとない命が失われたことを伝える碑の名前である…〉と記す。

 京アニの実名公表については、ご遺族をはじめ、それぞれが苦渋の中にいたと聞いた。いまもなお、20人の遺族が公表に納得しておられないという。だからといってわが子、わが妻、わが夫の名を人々の心に届けたいと願う15人の犠牲者ご遺族の気持ちも重い。

 そうしたなか、実名公表に踏み切った京都府警は、発表に当たって、犠牲者の親族のみなさんのご意向を1家族ずつ丁寧に説明したと聞いた。では私たちメディアはどうだったのか。

 このたびは誘拐など人命に関わる事件以外は認められない報道協定を、まず在阪の民放4局が提案。時には深夜に及ぶ激論の末、新聞各社やNHKも協定に参加。遺族の負担を極力減らすべく、1家族について1社が代表して取材交渉に当たることとしたという。

 それぞれが痛みを分かちあった結果として、アニメや映画と同じように、いま静かに流れ始めたエンドロール。それぞれの人生、かけがえのなさに改めて触れつつ、未だ重篤な8人の方に思いを寄せる。

 暗い劇場に、まだ明りは灯りそうにない。 

(2019年9月3日掲載) 

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