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2019年9月19日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

昨年の関西の経験 学ばぬ政府
-台風15号 続く大規模停電-

 「一体、千葉の停電はいつ解消するんや」「千葉ではお年寄りだけでも避難してもらうわけにはいかんのか」。関西で遠く離れた「千葉」の地名が人々の口からこんなに出たのは初めてではないか。その裏には、なぜ去年の私たちの経験が生かされなかったのか、という思いがあるようだ。

 台風15号が去ったあと襲ってきた大変な停電被害。当初、首都圏で93万戸、千葉だけで63万戸。台風直撃から10日もたつのに、いまだ完全復旧に至っていない。それがどれほどつらいか。思い出すまでもない。昨年9月4日の台風21号。大阪のわが家でも3日間停電。私はそのうち一晩しか経験していないが、エアコンがつかない中、汗びっしょりになって何度、目が覚めたことか。千葉でもすでに3人が熱中症で亡くなっている。

 何より驚くのは、わずか1年前の関西の経験に政府がなにも学んでいない鈍さだ。みんながこんなに苦しんでいるのに、政府はついに非常災害対策本部を設けなかった。私が出演している大阪・ABCテレビが首相動静を精査すると、安倍首相は首都圏の駅を通勤客が十重二十重に取り囲んでいた9日午前、内閣危機管理監と気象庁長官からたった5分、状況の説明を受けただけ。そもそも台風が去ったあとで気象庁長官に何を聞きたかったのか。

 せめて関係閣僚会議を開いておけば、事態は随分変わったはずだ。だが、いかんせん翌々日は第4次安倍内閣再改造の日。首を長くして、大臣ポストを待っていた70代議員が首を伸ばし切って喜べば、最年少38歳の小泉進次郎議員は「理屈じゃない。自然な気持ち」と、なぜか結婚も大臣就任も一緒のコメント。ハシャギ浮かれていないで閣僚会議を開いておけば、事態は少なからず変わったはずだ。

 国交省は一昼夜以上もかけてやってくる北海道や九州電力などの車両の高速道優先走行。警察庁はそのための交通規制。防衛省は自衛隊のヘリによる機材輸送と障害物の撤去。総務省は消防庁や各自治体との情報交換…。関係閣僚が連携するだけで、復旧は少しだけでも前に進んだはずだ。

 あってはならないことだが、こんな経験を、せめて次につなげられないものか。天災は忘れたころにやってくる─人災は(政権の)鈍さを突いてやってくる。

(2019年9月17日掲載)

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