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2019年9月

2019年9月26日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

温かみも思いやりもない増税の法律&規則
-消費増税と複雑な軽減税率の話-

 出演している大阪・ABCテレビの「キャスト」に「お絵描きニュース」というコーナーがある。女性アナウンサーが、かわいいイラストをつけて時の話題を解説する。先週のテーマは10月1日、8%から10%に上がる消費増税だった。

 中でも最近人気なのが、外食でもない、内食でもない、中食(なかしょく)だそうだ。レストランなどの店内で食事をするのは、食品軽減税率の対象にならない外食扱いで10月から消費税は10%。これに対してピザやハンバーグといったものを持ち帰る内食は軽減税率が適用され、8%のまま。

 一方、レストランなどで調理途中の食品を買って家で少し手を加える。これが中食で、税率は内食と一緒で8%。女性アナは「パーティーなど出先でコックさんが調理してくれるケータリングも中食の扱いですから、お得かもしれませんね」とコーナーを締めくくった。

 ところが数分後、担当者があわててスタジオに「ケータリングは外食扱い。税率は10%」というペーパーを入れてきた。咄嗟に私は「国税の税解釈は複雑。訂正放送は少し待った方が」と止めたのだが、10%課税のケースがある以上ということで、おわびとともに訂正した。

 納得できない私がさっそく国税庁などのガイドブックを調べてみると、やっぱりなあー。

▼自店舗でないところで食事を出すのは「食事の提供」で外食。家で食べてもらうのは「飲食料品の提供」で内食。出張料理のケータリングは食事の提供とみなされ、外食扱いの10%となる
▼取り分けや盛りつけは食事の提供とみなされ、外食扱い。ただしみそ汁をおわんに入れたまま配達するとこぼれるので、出先でポットから分けるのは食事の提供にならず、軽減税率の対象
▼会社にコーヒーの出前を取る場合、社外の喫茶店なら内食扱いで軽減税率。ただし社内のテナントから取ると、お持ち帰りにはならず外食の10%
▼老人ホームの食事は原則内食の軽減税率。ただし「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に登録すること。1食につき640円以下、1日の累計が1920円以下であること─

 このあたりまで読んで、私は完全にキレましたね。こんなわけのわからない法律に規則。役人の小理屈、屁理屈。温かみも思いやりもない、いやーな社会という気がしてならないのだ。

(2019年9月24日掲載)

 

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2019年9月19日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

昨年の関西の経験 学ばぬ政府
-台風15号 続く大規模停電-

 「一体、千葉の停電はいつ解消するんや」「千葉ではお年寄りだけでも避難してもらうわけにはいかんのか」。関西で遠く離れた「千葉」の地名が人々の口からこんなに出たのは初めてではないか。その裏には、なぜ去年の私たちの経験が生かされなかったのか、という思いがあるようだ。

 台風15号が去ったあと襲ってきた大変な停電被害。当初、首都圏で93万戸、千葉だけで63万戸。台風直撃から10日もたつのに、いまだ完全復旧に至っていない。それがどれほどつらいか。思い出すまでもない。昨年9月4日の台風21号。大阪のわが家でも3日間停電。私はそのうち一晩しか経験していないが、エアコンがつかない中、汗びっしょりになって何度、目が覚めたことか。千葉でもすでに3人が熱中症で亡くなっている。

 何より驚くのは、わずか1年前の関西の経験に政府がなにも学んでいない鈍さだ。みんながこんなに苦しんでいるのに、政府はついに非常災害対策本部を設けなかった。私が出演している大阪・ABCテレビが首相動静を精査すると、安倍首相は首都圏の駅を通勤客が十重二十重に取り囲んでいた9日午前、内閣危機管理監と気象庁長官からたった5分、状況の説明を受けただけ。そもそも台風が去ったあとで気象庁長官に何を聞きたかったのか。

 せめて関係閣僚会議を開いておけば、事態は随分変わったはずだ。だが、いかんせん翌々日は第4次安倍内閣再改造の日。首を長くして、大臣ポストを待っていた70代議員が首を伸ばし切って喜べば、最年少38歳の小泉進次郎議員は「理屈じゃない。自然な気持ち」と、なぜか結婚も大臣就任も一緒のコメント。ハシャギ浮かれていないで閣僚会議を開いておけば、事態は少なからず変わったはずだ。

 国交省は一昼夜以上もかけてやってくる北海道や九州電力などの車両の高速道優先走行。警察庁はそのための交通規制。防衛省は自衛隊のヘリによる機材輸送と障害物の撤去。総務省は消防庁や各自治体との情報交換…。関係閣僚が連携するだけで、復旧は少しだけでも前に進んだはずだ。

 あってはならないことだが、こんな経験を、せめて次につなげられないものか。天災は忘れたころにやってくる─人災は(政権の)鈍さを突いてやってくる。

(2019年9月17日掲載)

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2019年9月12日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

公務員の職務怠慢を罪に問えないか
-虐待事件の言い訳もう聞きたくない-

 少し前のこのコラムに、公務員が事件を起こそうと、とんでもない間違いをおかそうと、本人は名前も顔も隠してもらい、上司がしおらしく頭を下げて終わり。こんなことをしていたら私たちの社会はおかしくなると書いた。2件の児童虐待死事件を前にして、いままたその思いを強くしている。

 鹿児島県出水市で4歳の璃愛来(りあら)ちゃんが虐待死、母親の交際相手の男(21)が逮捕された。あざだらけで死亡した瑠愛来ちゃんは今年初め、それまで住んでいた薩摩川内市で4回、夜に戸外で1人でいたところを警察が保護。これを受けて警察は児童相談所に2度、女児の一時保護を要請したが、児相が保護することはなかった。

 また、母子が7月に薩摩川内市から出水市に転居した際、出水市は薩摩川内市から母親の育児放棄の引き継ぎを受けていながら、対応を協議する対策会議を開いていなかった。それどころか母親が妊娠しているのに、逮捕された男の存在は、両市とも「知らなかった」。

 一方、東京地裁では昨年3月、大学ノートに「もうゆるして おねがいします」と書いて亡くなった結愛(ゆあ)ちゃん(当時5)の事件で、父親とともに児童虐待で起訴された母親(27)の裁判が続く。

 この事件では、両親と結愛ちゃんは事件の約1カ月前に香川県から東京・目黒に転居。だが、虐待の事実を把握していた香川県の児相は、虐待を裏付ける資料を管轄の品川児相に送付していなかった。

 このため、転居から半月以上たって品川児相がやっと家庭を訪問。しかし母親は職員に「子どもはいない」と答え、児相はそのまま引き揚げている。この間、結愛ちゃんは朝4時に起こされて「ゆるして ゆるして」などとノートに記していた─。

 怒りとやるせなさで、胸が張り裂けそうだ。

 子どもの保護にも法律の壁がある、人手不足で1人の職員が100件も案件を抱えている、親と引き離すことが果たして適切か…。

 もういい。聞きたくもない。そんな言い訳、何万回聞いたことか。こんなことを言っている間に、何十人の子どもが命を落としたことか。極論であることも、批判も承知であえて書く。公務員の職務怠慢、職務不履行、職務不誠実を罪に問う法律はできないものか。

(2019年9月10日掲載)

 

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2019年9月 5日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

かけがえのなさに改めて触れる
-京アニ犠牲者実名公表-

 毎日新聞の朝刊、「永遠のエンドロール」の見出しを見て、また胸がつまった。京都アニメーション事件で犠牲になった35人のうち、25人の実名が公表され、すでに公表されている10人と合わせて全員のお名前や年齢が明らかになった。

 犠牲者の実名公表については、このコラムでもふれたように、ご遺族、警察、私たちマスメディアの間で、さまざまな軋轢(あつれき)が生じ、事件発生から40日、難航の末の結果だった。

 なぜ実名なのか。人さまのペンを借りるようだが、8月29日の、これまた毎日新聞のコラム、〈余録〉が言い尽くしくれているように思う。〈沖縄戦で亡くなった人々の名前を、国籍や軍人・民間人の区別なく刻んだ碑〉と、祈念公園の「平和の礎(いしじ)」を紹介。

 〈その石碑群が示す24万人という数の途方のなさにもまして、心を揺さぶるのは刻まれた名前の一つ一つだった〉と書き、〈並んだ名の一つにそっと手をかざすと、誰とも知れぬその人の生のかけがえのなさに触れた気がして涙が出てきた。この世に二つとない命が失われたことを伝える碑の名前である…〉と記す。

 京アニの実名公表については、ご遺族をはじめ、それぞれが苦渋の中にいたと聞いた。いまもなお、20人の遺族が公表に納得しておられないという。だからといってわが子、わが妻、わが夫の名を人々の心に届けたいと願う15人の犠牲者ご遺族の気持ちも重い。

 そうしたなか、実名公表に踏み切った京都府警は、発表に当たって、犠牲者の親族のみなさんのご意向を1家族ずつ丁寧に説明したと聞いた。では私たちメディアはどうだったのか。

 このたびは誘拐など人命に関わる事件以外は認められない報道協定を、まず在阪の民放4局が提案。時には深夜に及ぶ激論の末、新聞各社やNHKも協定に参加。遺族の負担を極力減らすべく、1家族について1社が代表して取材交渉に当たることとしたという。

 それぞれが痛みを分かちあった結果として、アニメや映画と同じように、いま静かに流れ始めたエンドロール。それぞれの人生、かけがえのなさに改めて触れつつ、未だ重篤な8人の方に思いを寄せる。

 暗い劇場に、まだ明りは灯りそうにない。 

(2019年9月3日掲載) 

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