日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
「その後のその後」やったらどうだ
-「表現の不自由展・その後」中止-
みんながそれぞれ間違えているのではないか。名古屋の東海テレビで連日、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が中止になったニュースを伝えながら、そう思っていた。
従軍慰安婦を表現する少女像などが展示されていることに河村たかし名古屋市長が「日本人の心を踏みにじる」と言えば、大村秀章愛知県知事は「市長発言は憲法(表現の自由)違反の疑いが濃厚だ」。そこに場外参戦した吉村洋文大阪府知事が「大村知事は不適格、辞職相当だ」と発言すると、伝え聞いた大村知事は「哀れ。大阪はこんなレベルの人が知事なのか」。
そもそも愛知、大阪の府県民は、ののしり合いをしてほしくて知事、市長を選んだのではない。それにこの人たちの芸術論など、ハナから聞きたくもない。だけど愛知、名古屋の県市で、この国際展に10億円以上出しているとなると「金も出すけど口も出す」、それがこの国の風土なのだ。
ただし、この金が公費、税金である以上、ガソリンをまくといった脅迫は論外として、タックスペイヤー、納税者に反対を訴える権利はあると思う。
では、この「不自由展・その後」に出展されている方たちはどうしたらいいのか。4年前、2015年の企画展がそうだったように、公費でなく、すべて自前で、今回の会場近くで独自の「不自由展・その後のその後」をやったらどうだ。10月14日までの長い会期。いまなら、まだ間に合う。
新たな会場費に、厳戒体制の警備費。経費はふくらむ一方で、チケットはいくらになるかわからない。だけど、どこからも1円たりともらっていない。企画者と来場者で思う存分楽しむ。
もちろん今回の件とはまったく別だが、京都アニメーションの悲惨な事件では、「京アニに抱いた夢を消さないで」と国内外から18億円ものお金が寄せられている。大事なもの、消してはならないものに、お金を惜しまない人は多いのだ。
では、そうしてすべて自前で再開された「―その後のその後」が脅迫や妨害を受けたらどうするか。私たちは県や市の行政機関、司法警察、あらゆる力をもって徹底的に守り抜く。
「表現の自由」は民主主義のとりで。「表現の不自由」は私たちの社会にあってはならないからである。
(2019年8月13日掲載)
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