日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
遺族 警察 メディアでよりよい取材のあり方を
-京アニ放火 史上最悪事件だからこそ-
「私はこれからもあなたのアニメの中にいます」「作品に出会って、生き方が楽になりました」。京都アニメーション、京アニの事件から2週間が過ぎた2日、犠牲になられた35人のうち遺族の承諾が得られた10人の実名が公表された。
さっそくテレビ、新聞には名前が明らかになったアニメーターのみなさんやご遺族への思いがあふれた。だけど、この実名公表までにはさまざま紆余曲折があって、私も少しの間だったが、その混乱のなかにいた。
事件当初、京都府警捜査1課は犠牲者の無念に思いをはせ、早い時期に実名を公表するとしていた。だが京アニ側が「そっとしておいて」と匿名を希望、いったん決まった7月末の公表は見送られた。さらに警察庁がメディア対策など、より慎重さを求めてきたため、時間を要してしまった。
この間、実名、匿名報道について聞いてきた通信社が差し替えコメントを求めてきたときやテレビ局の打ち合わせで、私は取材記者に「ご遺族の気持ちや警察の被害者保護の姿勢はわかる。だけどこんなときにメディアは何をしているんだ」と何度も言葉を強めた。
京都府警が100人もの警察官を被害者対策に向けた点は評価できる。だが報道に関して、遺族の要望を警察だけが聞いてくるという姿勢は間違っている。遺族の心のケアにも携わる警察官が「実名を出して取材に応じましょう」と言うとは思えない。むしろ悪気はなくても、警察というフィルターを通してメディアを語ることが多いはずだ。
結果、事件に限らず、事故や災害で「ほかの子はお遊戯のビデオまで流れているのに、なぜうちの子は名前だけなの」と問い合わせがあって、確認すると警察が思い込みで「取材拒否」としていたケースもあった。
日本の犯罪史上最悪の放火、殺人事件。だからこそこの事件を契機に、メディアスクラム防止のため全国の主要警察記者クラブが担当幹事社を常設しているように、新たに「ご遺族取材対策会議」といったものは設けられないだろうか。そこで遺族、警察、メディアの3者で、よりよい取材のあり方を協議していく。
京アニとメディア、互いにステキで大事な表現者であり続けるために、悲惨な事件のなか、せめてそんなことができたらと思っている。
(2019年8月6日掲載)
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