日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
クレーマー政党の思惑通りにさせないために投票を
-民主主義を支える2本の柱-
参院選の選挙戦まっ只中である。言わずもがなのことだが、民主主義を支える2本の柱は、この選挙制度と言論の自由である。だけど今回の参院選、驚くほど関心は薄く、投票率は過去4番目に低かった3年前を下回る見通しだという。
理由のひとつにはメディア、とりわけテレビ報道の後退がある。一部の政党からの異常なまでのクレーム。その対応に苦慮するくらいなら、と素っ気なく候補者を紹介するだけの報道。これでは視聴者が興味を持つはずがない。結果、クレーマー政党の思惑通りとなる。
さて、民主主義のもうひとつの柱である言論の自由。先週、それに深く関わる映画、「新聞記者」を見てきた。いま硬派の作品としては空前の大ヒットになっているこの映画の原案は、東京新聞社会部の望月衣塑子記者。スクリーンには、たしかこんな事件があったなと思わせる場面が次々現れる。それらの事件をめぐって情報を操り、謀略を仕掛ける内閣情報調査室(内調)、その網をかいくぐって何とか事実にたどりつこうとする若い女性記者。
権力の直近にいる男にレイプされ、実名で告白したにもかかわらず、もみ消される女性。その女性のスキャンダラスな男性関係をデッチあげてメディアに流せと命じられる若手内調官僚。
やがて、この若手官僚は慕っている元上司が特区に開校予定の大学新設に深くかかわっているのではないかと疑いを持つ。同じころ匿名で届いたファクスをもとに、女性記者も大学新設の疑惑を追う。だが、過去にも文書改ざん事件の責任を一身に背負わされた元上司は、自ら命を絶ってしまう。
渦巻く権謀術数。陰湿、陰険、そして目に見えぬ威迫。内調の実態はある程度知っているつもりだった私も背筋に冷たい汗が流れる。そんな映画の後段、若手官僚の現在の上司は、こう言い放つ。「この国の民主主義は形だけでいいんだ」。
絶望の淵に立ったラストシーンからエンドロールに。だが私は、そこで初めての経験をする。暗い館内で拍手が起こり、波打つようにしばらく鳴りやまなかったのだ。そう、こんな腐った権力を許してはならない、と。
だからこそ選挙に行こう。この国の民主主義を「形だけ」にしないために。「新聞記者」を見た元新聞記者からの切なる願いである。
(2019年7月16日掲載)
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