日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
世界でただ1国、日本だけが…
-象牙売買継続 商業捕鯨は再開-
少し前のことになるが、大阪で朝日新聞記者の三浦英之さんと小さなトークショーをさせてもらった。テーマはアフリカゾウ。
三浦さんは東日本大震災のあと現地に駐在して「南三陸日記」を連載されたが、当時、この記事がどれほど私の胸を打ったことか。
その後、三浦さんは南アフリカ特派員としてアフリカ全土をカバー。この特派員時代、ときには身の危険を感じながら追ったアフリカゾウの密猟組織の実態をまとめた単行本、「牙」が本年度小学館ノンフィクション大賞を受賞した。
雄大なサバンナ。子ゾウをまん中に悠然と歩く地球の陸地で最大の哺乳類、アフリカゾウ。三浦さんが撮影した映像に心ときめく。
だが1940年、500万頭いたアフリカゾウは象牙を狙った密猟組織の銃やわなに倒れ、いまは10分の1にも満たない39万頭に激減、十数年後には絶滅するといわれている。
だけどこのアフリカゾウの密猟組織に深くどころか、ただ1国、日本が関わっていることを一体、どれほどの国民が知っているだろうか。最大の密輸国だった中国でさえ国内市場を閉鎖したのに、日本は「印鑑文化に象牙は欠かせない」として、世界で唯一、象牙の売買を認めている。政府は「国内在庫分に限った流通で密猟と関係ない」としているが、市場が開いている限り、そこを抜け穴にした取引は後を絶たない。
折しも7月1日、日本の商業捕鯨が31年ぶりに再開され、釧路港に2頭のミンククジラが水揚げされた。「クジラの食文化」を訴える日本に耳を傾けようともしないIWC(国際捕鯨委員会)を脱退しての再開。もちろん、イギリスなど欧米の反発は強く、捕鯨再開を「恥ずべき瞬間」と書いた海外メディアもあった。
だが日本人のクジラ肉の消費は、いまは食肉全体の0.1%。1人当たり年間30㌘。国際社会の批判が渦巻くなか、本当に多くの国民が、この日の商業捕鯨再開を心待ちにしていたのか。
象牙を柘植や樹脂に代えてしまったら印鑑文化は成り立たない。商業捕鯨なしに日本の食文化は成り立たない─。そう信じて疑わない国民は果たしてどのくらいいるのか。その一方で地球の陸と海の最大の哺乳類、ゾウとクジラの命が、きょうもあすも奪われている。
(2019年7月9日掲載)
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