日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
苦しみは患者だけじゃない 家族もだ
-ハンセン病 国へ賠償判決-
私も文化放送の「村上信五くんと経済クン スペシャル」の生番組のため会場のインテックス大阪にかけつけたG20大阪サミット。番組では関ジャニ8の村上さんが安倍首相を単独インタビュー。結構本音も出て、なかなかおもしろかった。
ただ、この日の朝刊は、というと、ご当地大阪の全国紙でもサミットを1面トップにしたのは読売、産経、日経の3紙。一方、朝日、毎日の2紙は「ハンセン病 家族にも賠償」と、ほぼ同じ見出しで1面トップで報じていた。
サミット会場に向かう電車の中で新聞を開きながら、もう10年以上前に訪ねた熊本の施設、「菊池恵楓園」で出会ったお年寄りの顔が浮かんだ。家族にも見放された隔離施設。夕暮れどき、一戸建ての家の縁側でインタビューに応じてくれたご夫婦は、お互いの膝に手を置いて幸せそうだった。だが施設の夫婦には、どこも子どもはいない。患者同士の婚姻は、男性の断種か女性の不妊手術が条件だった。
この隔離政策が違憲とされて、じつに20年近く。恵楓園のある熊本地裁の判決は、この政策が家族の人権をも甚だしく侵害したと認定。そのうえで「実際に差別体験がない家族でも結婚や就職などで差別される恐怖があり、共通の被害を受けた」と、1歩も2歩も踏み込んだ判断を下して561人の原告中541人に国の賠償を認めたのだ。
判決を読みながら、私の胸に真っ先に浮かんだのは、国による強制不妊手術だった。旧優生保護法のもと、知的障がいなどは遺伝するという誤った認識によって施された不妊手術。つい23年前の1996年まで、この法律は生きていたのだ。
今年4月、国はやっと被害者1人当たり一時金320万円を支払うとともに、首相のおわび談話を発表した。だが、それはあくまで被害者本人に対してだった。
ハンセン病患者の家族について熊本地裁が「患者と共通の被害を受けた」とまで言い切ったいま、私たちの国は何を思うのだろうか。強制不妊こそ、かけ替えのない配偶者を言葉で言い表せないほど傷つけたのではないのか。
国際会議場に向かう電車の中、「ハンセン病患者と家族を排除したのは、私たち地域社会でもあった」とする朝日新聞の女性記者の言葉が胸に響いていた。
(2019年7月2日掲載)
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