日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
卑劣な暴力の連鎖 鈍感にならぬよう
-京アニ放火殺人事件-
参院選挙が終わった。ただ今回は、まずその選挙戦の最中に起きた「京都アニメーション」放火殺人事件にふれたい。事件が起きた18日、私は大阪の自宅にいた。いち早くNHKが正午のニュースで「死者10人以上」と深刻な事態を伝え、映像でも死者数は、それをはるかに上回ることは容易に想像できた。
夕方、ABCテレビのニュース番組を控えていた私はチャンネルを替えながらテレビ画面を見続けたのだが、これほどの事件なのに、通常番組を打ち切って特別報道番組に切り替えた局はない。そんな状況のまま局入りした私は、いきなりスタジオで「重大事件に、こんな対応でいいのか!」と怒りを爆発させてしまった。
この時点で明らかになった犯行の動機は断片的だったが、それでも理不尽な要求が通らず、放火という暴力に走ったことは明らかだった。川崎のカリタス学園児童殺傷事件、大阪・千里山の交番拳銃強奪事件…。思い通りにならないことを卑劣な暴力に訴えようとする。そうした流れに、この社会はあまりに鈍感になってはいないだろうか。
さて、投開票のすんだ参院選。これらの事件とはまったく関係ないのだが、終盤、心にひっかかることがあった。JR札幌駅前で街頭演説をしていた安倍首相に「帰れっ」とか「増税反対」を叫んだ聴衆が私服警官に囲まれ、駅前から排除された。3日後には滋賀県大津京駅前で首相にヤジを飛ばした男性が警官にフェンスに押しやられ、演説中、身動きがとれなくなった。
警察は「トラブル防止」としているが、首相の訴えに反対する人々を権力という力で抑え込んで、首相にすり寄ったのは明らかだ。他方、だれの演説であれ、ただただ罵声を浴びせたり、大音響のスピーカーで声をかき消す。そんな暴力も決して許されるものではない。
さて、京都アニメーションの事件は、Pray For Kyoani(京アニに祈りを)のハッシュタグが拡散、「世界中が応援しています」といった数千のメッセージが寄せられているという。まさにアニメは、音楽、スポーツと並ぶ世界共通の言語。私たちは暴力ではなく、こんなクール・ジャパン(ステキな日本文化)を持っているではないか。そのことをいま、しっかりとかみしめたい。
(2019年7月23日掲載)
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