日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏
猛暑の北海道で姿見せたエゾナキウサギ
-観測史上初の暑さに肝冷やした-
先月末、観測史上初めての北海道の猛暑に、妙な話だが私は肝を冷やした。というのも、その半月前、まだ雪の残る十勝地方の山の中、私はガレ場と呼ばれる岩肌をただただ見つめ、ひたすら耳をそばだてていた。
物音ひとつたてずにたたずむ、数人のアマチュアカメラマンと私たちのテレビクルー。その私たちを案内してくれた弁護士の市川守弘さんと妻の利美さん。目を凝らす先は直径20㌢ほどの岩穴。中にはきっと、エゾナキウサギがいるはずだ。
市川さんは、日本中の警察が震え上がった北海道警裏金不正を徹底追及した硬骨、反骨の腕っこき弁護士。だけど還暦を過ぎて札幌の事務所を占冠村トマムに移し、手作りの山小屋で暮らし始めた。そんなユニークな弁護士人生をテレビ朝日系列のドキュメント、「テレメンタリー」が密着取材しているのだが、市川さん夫妻には、もう1つの顔、自然とのかかわりがある。
妻の利美さんは「ナキウサギふぁんくらぶ」の会長なのだ。エゾナキウサギは7万年から1万年前、氷河期からの哺乳類。日本列島がユーラシア大陸と離れたあと、北海道の大雪、日高など限られた寒冷地で命をつないできた。だから先日の猛暑に、どんなにびっくりしたことか。
手のひらに乗るほどの大きさ。ウサギなのに小さな小さな耳。岩穴を出るときや仲間を呼ぶときに出すピィッという鳴き声がその名のいわれだ。環境省レッドリストの準絶滅危惧種。写真集や動画で見た愛くるしい姿に、これまでイヌワシやヤンバルクイナ、クロガンなど絶滅危惧種に出合ってきた私は、なんとしてでも会いたくなった。
ルールを守る自然保護者しか知らない生息地を秘密にすることを約束して、テレビクルーとガレ場に。とはいえ、出合えるかどうかはナキウサギのご機嫌次第。ただただ岩肌を見つめていましたね。目も耳も研ぎ澄まして。だけど午前中は鳴き声は聞こえても姿は見えず。午後もただただ立ちましたが、肌寒くなってディレクターの顔色も悪くなってきた、その時でした─。
ピィッという声とともに、岩の上にちょこんとお座りして。ホントかわいかったなぁ。
この模様は8日土曜、テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」(午後4時30分)で、ぜひご覧ください。
(2019年6月4日掲載)
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