日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏
迷走している高齢者運転対策
-後を絶たない暴走事故-
高齢運転者による事故が後を絶たない。10日には兵庫県小野市の病院駐車場で81歳の夫が運転する車に77歳の妻がひかれて死亡。悲惨な老後となってしまった。
そんな折、気になるニュースを産経新聞が伝えていた。全国のバス路線、53万7000キロ余りのうち、この10年間で約2%、約1万3000㌔が廃止されているという。毎年1000㌔余り。主な原因は深刻な運転手不足だが、東京、関西など大都市圏以外では、少子高齢化で乗客が26%も減って赤字になっていることが路線消滅に拍車をかけている。
この記事を見て真っ先に思い出したのが、東日本大震災から1、2年たったころの宮城県南三陸町だった。民間のバス会社が朝一番の仙台行きを運転手不足と乗客減から廃止してしまったのだ。
町内で仙台の国立大学病院に月に何回か通っているお年寄りはこの便を利用していたのだが、次の便では午前の診察に間に合わない。といって息子たちに丸1日診療につき合わせるわけにはいかない。余裕のある人は前夜から大学近くのホテルに泊まり、そうでない人は、まだ暗いうちからやっと1車線が開通した高速道路を2時間かけて仙台に向かう。お年寄りにとって病院への足の確保は、ある意味で死活問題なのだ。
このバス路線廃止のニュースと前後して、私は北関東の地方都市に近い医科大学で短い時間、講義する機会があった。事務局長と雑談していると、周辺は完全な車社会。1500台収容の大学病院駐車場でも入り切れないことがある。もちろん患者はお年寄りが多い。
そこで病院は、地方都市のJR駅から片道30分、ワンコイン(500円)で病院と結ぶバスを運行させようとしたのだが、日本の運輸行政は、にべもなく門前払い。細かな理由は聞きそびれたが、どうやら病院が運行主体の有料路線バスは認めないということらしい。事務局長は「タクシーだと5000円近く。お年寄りは随分助かると思うのですが」と残念でならない様子だった。
高齢ドライバーの病院での暴走事故。もちろん過失の責めは負うべきだ。だが裕福な87歳元高級官僚が都心の繁華街で2歳の女の子と母を死亡させた事故とは、私には違って見える。
高齢ドライバーの暴走事故対策。私は迷走しているように思えてならない。
(2019年6月18日掲載)
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