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2019年6月

2019年6月27日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

警察官の拳銃は安全を守るもの
-相次ぐ強奪事件…でも-

 大阪の交番警察官襲撃、拳銃強奪事件。神奈川の包丁を持った刑確定犯の逃走。市民を不安に陥れる事件が相次いだ。大阪の事件は、襲われた若い巡査が快方に向かっているという情報に胸をなで下ろしている。

 ただ、ここに来て、あまりに短絡的な机上の空論が長い間事件現場を取材してきた私の胸をざわつかせている。昨年の富山、宮城、そして今回の大阪と交番襲撃、拳銃強奪事件が相次いだことから、いっそのこと交番勤務の警察官の拳銃携行をやめたら、という声が一部の新聞の社説やジャーナリストから出ているのだ。

 ここは冷静に考えてほしい。話は飛ぶが、私は、アメリカは永遠に銃社会から抜け出せないと信じている。なぜか。彼らは銃が規制されたら、その法に従うのは善良な市民、つまり白人。法を守らず銃を持ち続けるのは、ならず者、はっきり言って黒人などマイノリティーかマフィア。そうなると、銃の犠牲になるのは法を守っているお人よしだけになるではないか。そうはいかない。家族を守るためにも、善良な市民もまた絶対に銃を手放せないのだ─。

 結果、アメリカの銃による犠牲者は2016年、1万3000人余り。ひるがえって日本はどうか。これでもかというほどの銃規制社会。発砲や所持はもちろん、理由なくさわっても罪になるがんじがらめの厳罰法。結果、2018年銃による死者はわずか3人。アメリカの4500分の1だ。

 とはいえ、正確な数は不明だが、日本でも拳銃は5万丁から15万丁が暴力団や外国人犯罪組織に所持されているとみられている。それらの銃がいつなんどき、無防備な市民に向けられるかわからない。そのときこそ交番の、パトロールの警察官が常時携行している拳銃を持って立ち向かう。ときには盾になって善良な市民を守り抜く。そのことによって、いやそれがあるから日本の厳重な銃規制社会は成り立っているのだ。

 識者の中にはスタンガンの携行で十分という人もいたが、犯罪組織の銃口が火を噴くとき、それで立ち向かえというのか。このたび重体となった警察官への思いは私も深い。だが、そのことで銃が重荷になるほど日本の警察はヤワではない。何より私たちは100年続く、この安全な社会を手放すわけにはいかないのだ。

(2019年6月25日掲載)

 

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2019年6月20日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

迷走している高齢者運転対策
-後を絶たない暴走事故-

 高齢運転者による事故が後を絶たない。10日には兵庫県小野市の病院駐車場で81歳の夫が運転する車に77歳の妻がひかれて死亡。悲惨な老後となってしまった。

 そんな折、気になるニュースを産経新聞が伝えていた。全国のバス路線、53万7000キロ余りのうち、この10年間で約2%、約1万3000㌔が廃止されているという。毎年1000㌔余り。主な原因は深刻な運転手不足だが、東京、関西など大都市圏以外では、少子高齢化で乗客が26%も減って赤字になっていることが路線消滅に拍車をかけている。

 この記事を見て真っ先に思い出したのが、東日本大震災から1、2年たったころの宮城県南三陸町だった。民間のバス会社が朝一番の仙台行きを運転手不足と乗客減から廃止してしまったのだ。

 町内で仙台の国立大学病院に月に何回か通っているお年寄りはこの便を利用していたのだが、次の便では午前の診察に間に合わない。といって息子たちに丸1日診療につき合わせるわけにはいかない。余裕のある人は前夜から大学近くのホテルに泊まり、そうでない人は、まだ暗いうちからやっと1車線が開通した高速道路を2時間かけて仙台に向かう。お年寄りにとって病院への足の確保は、ある意味で死活問題なのだ。

 このバス路線廃止のニュースと前後して、私は北関東の地方都市に近い医科大学で短い時間、講義する機会があった。事務局長と雑談していると、周辺は完全な車社会。1500台収容の大学病院駐車場でも入り切れないことがある。もちろん患者はお年寄りが多い。

 そこで病院は、地方都市のJR駅から片道30分、ワンコイン(500円)で病院と結ぶバスを運行させようとしたのだが、日本の運輸行政は、にべもなく門前払い。細かな理由は聞きそびれたが、どうやら病院が運行主体の有料路線バスは認めないということらしい。事務局長は「タクシーだと5000円近く。お年寄りは随分助かると思うのですが」と残念でならない様子だった。

 高齢ドライバーの病院での暴走事故。もちろん過失の責めは負うべきだ。だが裕福な87歳元高級官僚が都心の繁華街で2歳の女の子と母を死亡させた事故とは、私には違って見える。

 高齢ドライバーの暴走事故対策。私は迷走しているように思えてならない。

(2019年6月18日掲載)

 

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2019年6月13日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」 大谷昭宏

ひきこもり2人の事実に今こそ向き合うべき
-起こした事件と起きた事件に思う-

 議論するというより、ただむなしく言葉が飛び交っている。川崎市でカリタス学園の女子児童ら2人が殺害された事件で私も発生翌日、現場に飛んだ。状況から自殺した容疑者が計画的に学園の子どもに襲いかかったことは明らかだった。スクールバスの乗員が立ち向かわなかったら、とても18人の負傷者ではすまなかったと、背筋が凍った。

 容疑者の51歳の男は、育ての親の80歳代の伯父夫婦の家で20年近くひきこもっていたという。

 その週末、東京・練馬で元農水省事務次官が44歳の長男を包丁で刺して殺害した。最近、家に戻ってひきこもっていた長男は、両親に激しい暴力を加え、父親は長男の命を絶つ思いを妻に伝えていたという。

 この事態にひきこもりの家族を抱える家庭を支援するNPOの代表がテレビで、「ひきこもりを犯罪予備軍のように捉えないで」と訴える一方、根本厚労相も「事件とひきこもりを安易に結びつけるのは慎んでほしい」とする談話を出した。

 とはいえ、そんなことは世の中の大半の人はわかっているはずだ。だけど、ひきこもりの男がなんの罪もない少女たちに襲いかかり、一方で、ひきこもりの男が官僚のトップに上り詰めた父親に殺害された。事件は起きてしまったのだ。そのことは動かし難い事実ではないのか。

 誤解を恐れずに目を少し移してみよう。私たちは精神疾患、精神障がい者を犯罪予備軍と捉えていない。安易に犯罪と結びつけることもしていない。だけど、刑事責任を問えない、心神耗弱、心神喪失などの事件には行政による措置入院、裁判所による通院、入院の決定。差別を助長しないように、慎重に慎重に議論を重ねながら、こうした制度を構築してきたではないか。

 言うまでもなく、ひきこもりは虐待やいじめと違って犯罪ではない。極論すれば、ひとつの生活スタイルであって警察や役所が安易に入っていくべきではない。

 だが、その一方で、日本の行政、司法の隅々まで知り尽くした元官僚はそこを頼る様子もなく、昼下がりの自宅で刃を息子に振りかざした。妻は夫の人生のすべてと息子の命がいままさに失われようとしていたのに、駆け込む場所さえなかった。

 この事実こそ、いま私たちが真剣に、深刻に議論すべきことではないのか。

(2019年6月11日掲載)

 

 

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2019年6月 6日 (木)

日刊スポーツ「フラッシュアップ」大谷昭宏

猛暑の北海道で姿見せたエゾナキウサギ
-観測史上初の暑さに肝冷やした-

 先月末、観測史上初めての北海道の猛暑に、妙な話だが私は肝を冷やした。というのも、その半月前、まだ雪の残る十勝地方の山の中、私はガレ場と呼ばれる岩肌をただただ見つめ、ひたすら耳をそばだてていた。

 物音ひとつたてずにたたずむ、数人のアマチュアカメラマンと私たちのテレビクルー。その私たちを案内してくれた弁護士の市川守弘さんと妻の利美さん。目を凝らす先は直径20㌢ほどの岩穴。中にはきっと、エゾナキウサギがいるはずだ。

 市川さんは、日本中の警察が震え上がった北海道警裏金不正を徹底追及した硬骨、反骨の腕っこき弁護士。だけど還暦を過ぎて札幌の事務所を占冠村トマムに移し、手作りの山小屋で暮らし始めた。そんなユニークな弁護士人生をテレビ朝日系列のドキュメント、「テレメンタリー」が密着取材しているのだが、市川さん夫妻には、もう1つの顔、自然とのかかわりがある。

 妻の利美さんは「ナキウサギふぁんくらぶ」の会長なのだ。エゾナキウサギは7万年から1万年前、氷河期からの哺乳類。日本列島がユーラシア大陸と離れたあと、北海道の大雪、日高など限られた寒冷地で命をつないできた。だから先日の猛暑に、どんなにびっくりしたことか。

 手のひらに乗るほどの大きさ。ウサギなのに小さな小さな耳。岩穴を出るときや仲間を呼ぶときに出すピィッという鳴き声がその名のいわれだ。環境省レッドリストの準絶滅危惧種。写真集や動画で見た愛くるしい姿に、これまでイヌワシやヤンバルクイナ、クロガンなど絶滅危惧種に出合ってきた私は、なんとしてでも会いたくなった。

 ルールを守る自然保護者しか知らない生息地を秘密にすることを約束して、テレビクルーとガレ場に。とはいえ、出合えるかどうかはナキウサギのご機嫌次第。ただただ岩肌を見つめていましたね。目も耳も研ぎ澄まして。だけど午前中は鳴き声は聞こえても姿は見えず。午後もただただ立ちましたが、肌寒くなってディレクターの顔色も悪くなってきた、その時でした─。

 ピィッという声とともに、岩の上にちょこんとお座りして。ホントかわいかったなぁ。

 この模様は8日土曜、テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」(午後4時30分)で、ぜひご覧ください。

(2019年6月4日掲載)

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